世界に逆行!音楽CDが売れる「K-POP」の驚く進化 人気のBTS、BLACKPINKも含めて見られる方向性
大手芸能事務所のSMエンターテインメントとYGエンターテインメントの2社が社内にデザイン・ビジュアルを専門としたチームを作り、それまでとは違うCDデザインに挑戦し始めたといわれているが、芸能事務所がグラフィックないしプロダクトデザインのコンセプト策定から実作業までを社内で完結させていると知ったときは驚いた。
ジャケットのデザインだって変わっている。日本のアイドルCD(K-POPのCDの日本版を含む)だとメンバー全員が同じ比率で写った集合写真を使うのが暗黙の前提なのに、韓国では作品のコンセプトとマッチしていればメンバーの誰か一人だけを前面に押し出すケースもあって、そもそも本人たちが一人も表に登場せず、抽象的なロゴやグラフィックでデザインされている場合が多い(これはサブスク先進国として画面上の小さなサムネイルを強く意識しているというのもあると思う)。CDというプロダクトをはなからアイドルの宣伝媒体とは考えていないのだろう。
K-POPのCDは、仕様や封入物にも工夫と遊び心が存分に詰め込まれている。韓国ではアイドルのCDは通常2〜3種類(多いときはメンバーの人数分)の仕様で発売される。
もちろん日本のCDでいう初回盤と通常盤も、ジャケットのデザインと特典映像ないしボーナストラックが異なるように作り分けられているが、K-POPだと仕様が違えばサイズや素材までびっくりするくらい変えてくるケースもあり、封入される分厚いブックレットの写真もすべて別のカットになっていたりする。共通するのは収録されている曲だけ、といっても過言ではない。
また、1枚のCDにランダムで封入されるアイテムの種類もとにかく多い。アルバムごとにアイテムは異なるが、ミニポストカード、トレーディングカード、ポスターなどがいくつも同封され、メンバー別にバージョンが異なる。最近では、コースター、ARカード、タトゥーシール、しおり、メンコといった、ユニークなアイテムも封入されている。ちなみにこれらは町工場で手作業で封入されているようで、アイドルが自分たちのアルバムを作っている工場に社会科見学に行く動画も無料で公開されている。
開封体験そのものが価値のあるCD
そもそも韓国にはCDショップがものすごく少ない。1990年代には全国に2万店以上あったのが2017年には100店以下になったといわれている。だから今となってはCDショップを見つけるのも一苦労で、いまだにリアル店舗に行こうとするのは海外からCDを買いに来たK-POPファンか、サイン会のために所定のショップでアルバムを買う必要がある、これまたK-POPファンくらいだろう。
したがって韓国人はアイドルのCDやグッズもネットで買うのが日本よりもさらに一般的で、だいたいの買い物をオンラインで済ませる。CDの流通規格が整備される前から芸能事務所がパッケージの新しいスタイルを開拓していたところに、ネットショッピングの普及もあいまって、K-POPのCDの自由すぎる多様性が確立されてきたのだろう。
事務所の大小にかかわらず、どのアイドルのCDも特殊印刷・特殊加工のオンパレードで、デザインに興味がある人なら「どうしてこんなことが、こんなに安くできるの⁉」と不思議に思うことだろう。MV同様にクリエイティブにかける情熱と予算の大きさについて、前出したGDSTさんはこう説明する。
「楽曲制作だけでなく、衣服やグラフィック、MVなど全方位のクリエイティブに対してお金をたくさん使って音楽業界をよくしていこうという責任感が業界全体にあります。逆にいえば少しでも手を抜くとフィールドに上がれないため、『よいものを作ればうまくいく』と信じて小さな会社も大手を真似しながら頑張って資金を投じる。その結果、K-POPのクリエイティブの平均値がどんどん上がっている感じです」
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