現代人が今、ケインズ「一般理論」を知るべき理由 池上彰×山形浩生「教養としての経済学」対談
池上:ソ連では、バレエ団にお客が入らないからといって支援したりもしています。ひょっとすると、そういった背景からかもしれませんね。
山形:『説得論集』という雑文集には、『孫たちの経済的可能性』というテーマで書かれているものがあります。
それを読むと、実はケインズは、将来のことは実はまったく心配していなくて、1日3時間働けば十分に生きていけるよということを、大不況の真っただ中で言っているんですよ。
結婚したばかりのバレリーナの妻と一緒にソ連に行くわけですが、その時期には、社会主義は、まともな理論ではなく、宗教の一種だと書いていたりもします。これは『一般理論』よりも前の時期に書かれたもので、面白いですし、考え方の背景がかなり理解できます。
『人物評伝』といういろんな人の伝記を書いた文章もあります。彼はニュートン研究家でもあったのですが、「実はニュートンって、わけのわからない錬金術もやってるんだよね」と初めて言い出した人なんです。
今では有名な話ですが、当時は、近代科学の父ってそんなことやってたんですか、という衝撃もあって面白かったと思いますね。ケインズは非常に幅広い知見の人物なんです。
ケインズを超える経済学者は生まれない?
山形:この先、ケインズを超える経済学者は出て来ようがないかもしれません。
わからないことはわからない、というところまで行きついていて、その中でこんなふうに回せばいいんだという答えも出てしまっています。アメリカの理論的な経済学の流れを見ても、大きな理論の流れも、枠組みはだいたい片付いたので、今後は当分の間、こまかい実証の時代が続くと言われてもいます。
ここから新たな経済学者は、現れないのではないかと僕は思いますがいかがでしょう。
池上:行動経済学のように、ホモ・エコノミクス、つまり合理的に考えるモデルではうまくいかないところがあるよねという異議申し立てはあります。また、物理学の法則をマクロ経済の動きに適用したソシオフィジックスという新たな着眼点もありますね。
でも、結局は人間がやることですから、ケインズの作った基礎のうえで、どのような建物を建てるのかという流れではあるでしょう。
山形:トマ・ピケティのように、格差の問題についてなど、部分的に重視すべき課題は次々に出てくるとは思います。
池上:格差が大きな問題になっていると考えると、これもまた、結果的にケインズに戻るんですよ。
バイデン政権は、ばらまく一方で法人税を引き上げています。アメリカが法人税を引き上げると、みんな税率の安いシンガポールに出ていってしまうから、国際的な法人税の基準を決めようと言い出してもいます。現代的にケインズをどう生かすかという考えです。
そもそも、国が富裕層や企業からお金をたくさんとって経済を回すという仕組みそのものが、ケインズ理論ですからね。
いまバイデン政権がなにをやっているのか。起きている議論の背景にはケインズの理論があるということを、把握しておくことはとても重要だろうと思います。
(構成/泉美木蘭)
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