現代人が今、ケインズ「一般理論」を知るべき理由 池上彰×山形浩生「教養としての経済学」対談

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山形:ケインズは、一般人には慣れ親しんだ存在ではなかったですし、知らなくても生きていけるというのが正直なところではあります。

しかし、いまの世の中で普通に存在している経済政策の基盤を作った人物ですから、あなたが知らずに影響されているんだよということは知っておいても罰は当たりません。

特に、市場に任せていれば解決する状況ではない、ということはみんなが明らかにわかってしまいました。この先、大きな道としては、マルクスに行くのか、ケインズに行くのかというぐらいしかありません。

本書は、ケインズ理論のベースにいろんな小ネタをくっつけて、面白く読めるようにしていますので、娯楽として読んでもいいのではないかと思っています。

コロナで見えた、ケインズの「公共」

池上彰(いけがみ あきら)/ジャーナリスト。1950年、長野県生まれ。慶應義塾大学卒業。NHKで記者やキャスターを歴任、1994年より11年間『週刊こどもニュース』でお父さん役を務める。2005年より、フリージャーナリストとして多方面で活躍中。東京工業大学リベラルアーツセンター教授を経て、現在は名城大学教授、東京工業大学特命教授、東京大学客員教授など(撮影:尾形文繁)

池上:リーマンショックをきっかけに、市場万能でいいのかという疑問が出ました。さらに、とりわけ新型コロナで、国や政府が何かをしなければならなくなりました。人々の命と健康を守るのは、やはり国であり政府なんだということが、改めて再認識されたのではないでしょうか。

実は一昨年の段階で、厚生労働省が経営的に厳しい全国の公立病院を統廃合しようという計画を進めていて、具体的な病院名も出していました。もし、それが実現した後にコロナ禍が起きていたら、地方の人には行く病院がなくなっており、悲惨なことでしたよね。

でも、コロナがきっかけで病院の統廃合計画は止まっています。やはり、医療をマーケットに任せるのは実に危険なことだとみんなわかってきたのではないでしょうか。

SDGsのような、環境という場面において、マルクスが再評価されているように、人の命を守るためにはマーケットに任せてはいけないという場面においては、ケインズの再評価が起きているのだと思いますね。

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