現代人が今、ケインズ「一般理論」を知るべき理由 池上彰×山形浩生「教養としての経済学」対談

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山形:そうですね。犯罪が起きていないから警察を潰していい、というわけではありません。健康も同じです。公共の役割をどのぐらい保つかという話です。

ケインズは警察や病院についてよく知っているわけではないですが、少なくとも公共の果たす役割というものがあって、なんでも予算を絞ればいいわけではないと言っています。

別の本では、財務省の緊縮財政主義と猛烈に戦ってもいるんです。財政均衡赤字をなくせ、予算を削れということばかり言っているが、それはダメだ、ちゃんと出すものを出すべきだと。その中にも、警察や病院の話が出てきます。

池上:保健所も、1980年代、90年代よりも半減しているんですよね。だから、コロナでは足りなくなって過重労働になった。大きな問題がないから、保健所はそんなにいらないよねいう感覚で減らしたら、大変なことになっちゃったという典型例です。

マルクスかケインズか

山形:マルクスか、ケインズかと考えたとき、革命を起こしてコロナ対策ができるかというと、そうではありません。すると、やはりケインズのような方向で考えるしかないとなるでしょう。

なんでも野放図にやればいいというわけでもないし、締め付ければいいわけでもない。規律と自由の弾力性とバランスが大切になります。

池上:僕は、経済学者は経済におけるお医者さんだと思うんですね。経済状況に応じてどうすればいいのかという処方箋を書いているわけです。

マルクスの処方箋は副作用がものすごかった。それに対してケインズの処方箋はマイルドによく効いていた。でも、最近効果があまりないよねということで棚上げにして、新しい処方箋を書きはじめた。

そうしたら思わぬことが起きて、むかしケインズの処方箋を引っ張り出して改めて読んだら、案外いいとわかった。いまのケインズの再評価はこんな具合だと思いますね。

山形:例えば、キューバは社会主義を堅持しています。しかし、アメリカに制裁を受けていることもありますが、それ以外にもいろいろな理由で、それでは回らなくなるということが、だんだん見えてきました。

そこで、部分的に経済に自律性を持たせるにはどうすればいいのかという議論が始まり、いま道を模索していて、純粋マルクス主義が具体的に生き残っているところはもうほぼなくなりました。

キューバだけが社会主義を守っていましたから、惜しいというべきなのか……しかし、やはり、当然というべきかもしれません。

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