東芝、車谷氏退任後も悩まされる「株主との関係」 経営方針説明会で「モノ言う株主」が異例の批判

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東芝の脱炭素化関連のビジネスは順風とは言えない。5月11日にはアメリカのGEと洋上風力発電に関する戦略的提携契約を結んだ。洋上風力分野で世界3強の一角・GEと組むことで事業拡大を狙うが、「洋上風力設備の製造は儲からない。東芝は自社の工場の稼働を下げないためにやむなく手を組んだのではないか」(業界関係者)といった指摘もある。

ライバルの日立製作所はスイスの重電大手、ABBから送配電事業を1兆円で買収。エネルギービジネスの軸足を発電からシフトしつつある。4月にはシリコンバレーのIT企業、グローバルロジックを同じく1兆円規模で買収すると発表しており、攻勢が目立つ。

東芝は今回、1500億円を追加で株主還元すると提案したのも、裏を返せば買収などの成長投資には使わないことを意味している。「大型M&Aではなく、オーガニック成長とプログラマティックな(小規模な)M&Aを機軸とする」(綱川社長)という態度をとるのも、アメリカのウエスチングハウスなど過去の買収での巨額損失が今でもトラウマとして尾を引いている。

「ポスト綱川」は誰が担うのか

最大の課題は、ワンポイントリリーフとみられる綱川社長の後任として誰が経営の舵取りを担うのかだ。綱川氏は「経営の安定化を早期に実現させ、次の世代に引き継いでいく」とし、後継者選任の具体的な時期などは示さなかった。

車谷氏のもとで左遷された幹部を執行役員上席常務に呼び戻すほか、CVC幹部でもある社外取締役の藤森義明氏が退任するなどの動きはあるが、車谷氏がスカウトした幹部をやめさせるなど「車谷派の粛清」のような大規模な人事は発生していない。人事で社内抗争をするような余裕はなく、まずは全社一丸となった経営体制をどう作るかが焦点となるだろう。

同時に発表した2021年3月期決算は減収減益となったが、2022年3月期の売上高は前期比6.4%増の3兆2500億円、営業利益は同62.8%増の1700億円の増収増益を見込む。調達などを見直して固定費圧縮を進めた車谷改革の成果が出て、2022年3月期はほとんどの事業で目標としている部門利益率5%以上を達成する見通しだ。

車谷氏は株主との関係をこじらせ、波乱を残したままその座を明け渡したが、業績回復への一定の道筋を示したのも事実だ。新生・東芝は車谷氏が残したレガシーをどのように生かしていくかが問われている。

高橋 玲央 東洋経済 記者

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たかはし れお / Reo Takahashi

名古屋市出身、新聞社勤務を経て2018年10月に東洋経済新報社入社。証券など金融業界を担当。半導体、電子部品、重工業などにも興味。

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