東芝、車谷氏退任後も悩まされる「株主との関係」 経営方針説明会で「モノ言う株主」が異例の批判

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買収となれば市場価格よりも高値で株を買い取ることになり、既存株主にとって悪い話ではない。CVC提案の買い取り価格は1株5000円だったが、それより高値で買収を提案する別のファンドが現れる可能性もある。そうした提案にどのように対応するのか問うたのだ。

説明会で3Dは、「東芝が非公開化提案を受け取ることに非友好的だという認識が広がっている。そうした状況下では(今後登場するであろう買収提案者が)実現可能性のある提案はできないのではないか」と指摘した。原子力や防衛など、安全保障にかかわる事業を抱える東芝を買収する場合、東芝の協力がなければ買収の検討は難しい。買収を希望するファンドに対してデューデリジェンス(買収先企業の資産やリスクの調査)に協力するかどうかもただした。

これに対し、綱川社長は「いろいろなところから検討していく」と述べるにとどめた。どのような提案が「客観的に見て具体的かつ実現性のある真摯な」(4月20日付の東芝ニュースリリース)ものなのかについても、「事業戦略や資金的なバックグラウンド、安全保障上の話はあるが、われわれも積極的にこうだというのは正直なかなか難しい」(綱川社長)と明確な回答は避けた。

社外取締役候補に疑問の声も

東芝のガバナンスに対する投資家の視線も厳しい。ファラロンは、東芝が株主総会に提案した新たな社外取締役候補に監査委員会委員長を務めた太田順司氏(元新日本製鐵常務)を入れていることを問題視した。

東芝の前社長、車谷暢昭氏は調達改革など固定費圧縮を進めた(撮影:梅谷秀司)

2020年7月の前回定時株主総会における太田氏の賛成率は59.58%だった。これは57.96%だった車谷氏に次いで低い。太田氏は株主総会前の東洋経済の取材に対し、エフィッシモ・キャピタル・マネージメントの創業者である今井陽一郎氏を社外取締役として選任すべきとの株主提案に対し、「利益相反の可能性が出てくる」と発言したことから株主の不興を買っていた。

今回の説明会でファラロンは「株主からの信頼が著しく低い候補者を含めたことは、株主からの信頼を回復するという立場に沿っているとは考えられず、疑問だ」と問いただした。綱川氏は「候補者の推薦は指名委員会で決定した。太田氏には(取締役と兼任だった)監査委員会から引いてもらうことで指名委員会は配慮したと聞いている」と答えた。

買収提案について検討を求めるアクティビストからの批判をかわすには、業績を上げて株価を上げていくことが欠かせない。株価が上昇すれば、買収提案のハードルが上がるからだ。だが東芝自身、成長戦略を明確に描き切れていない。

綱川氏は車谷氏のもとで策定した再生計画「東芝Nextプラン」の大枠は変えないとした一方、にわかに脚光を浴びている脱炭素化に向けた戦略や、コロナ後の事業のあり方について計画をアップデートし、10月に2022~2024年度の中期経営計画として発表すると説明した。

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