目先の利益にとらわれず、原理を追求してきた 東芝機械の八木正幸取締役に聞く

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八木 正幸(やぎ まさゆき)
1958年、静岡県生まれ。県立富士高校卒業。慶應義塾大学大学院工学研究科機械工学専攻修士課程修了。1983年東芝機械株式会社入社。2009年取締役押出成形機事業部長、2010年取締役先進機械ユニット長兼押出成形機事業部長、2013年取締役執行役員、先進機械ユニット長兼技術・品質本部長、 2014年取締役常務執行役員、先進機械ユニット長兼技術・品質本部長

三宅:面白すぎますね(笑)。酔っていなければ、また別の道に行っていたかもしれないじゃないですか。

八木:ホントですね。しかしよかったことしては、ほかの事業部が担当しているのは汎用機で、設計と製造の部門が分かれるし、サービスも別会社になっていたのですが、押出成形機の事業部は注文に合せて作る特殊機を扱っているので、デスクワークだけではなく、みんなでいろいろな仕事を分担できるという事業部だったことでした。ちなみに会社の中では全体の規模の十分の一ぐらいの小さな組織で、作るものも食品の包装、容器、塩化ビニールのパイプなどで、作っても捨てられてしまうとか、地中に埋まって普段は見えないというものでした。

三宅:具体的にはどんな仕事をされたのでしょうか?

八木:最初は設計です。その後、開発、国内営業、輸出営業、技術部長、営業部長、事業部長となっていくのですが、最初の設計という仕事はつくづく自分には向いていないと思いました。というのも入社3年目のエピソードなのですが、オール東芝から選抜されて、作図の競技大会に出場したのです。

三宅:選抜されたのですね。すごいじゃないですか。

八木:そうなんですが、それがそうでもないんです(笑)。その大会というのが図面の美しさと正確さを競う大会なのですが、行ってみて驚いたのは、ほかの人はみんな半年から1年、集中教育を受けて来ているのですね。私は、学科は1番か2番でしたが、作図は大会の途中であきらめて退出してしまい、案の定、惨憺たる成績でした。やはり自分は決められたことをきちんとやるのが苦手だなと思い知りましたが、逆に、新しいものを作りたいのだとあらためて気づく機会にもなりました。

三宅:それで開発に行ったのですね。

設計でさんざん鍛えられ、開発へ

八木:設計に5年いて、開発に異動しました。開発では、普通はテーマを与えられますが、当時の上司がすばらしい人で、「君は好きなことをやればいい」と言ってくれました。

三宅:そう言われたのは八木さんだけですか?

八木:そうなのです(笑)。なぜかというと、その上司は、私が設計にいたとき、同じ八木さんという名前の顧問にさんざん鍛えられたことを知っていたのです。

三宅:どういう意味でしょうか??

八木:その八木顧問というのは、強烈な人で有名でした。なぜか私に、押出成形機の理論解析に関するドイツやアメリカの英語の論文を渡し、「これを翻訳して読んでこい」とおっしゃったのです。苦労して翻訳して八木顧問に持っていくと、その場で理論式の説明を求められました。私は翻訳しただけなので答えられなかったのですが、それで八木顧問に激怒されました。「読んでこいというのは、理解してこいという意味だ」と。だって、そんなこと言ったって……(涙)、という感じでした。なぜなら、式を理解するにはいろいろな展開が必要で、ひとつの論文だけを読んでわかるわけがないからです。それで、ほかの本や資料をいろいろ調べて勉強して、ようやく提出したのですが、提出すると、また次の論文を渡されるのです。そしてその繰り返し……。そして、ついには「これらの理論を理解して、シミュレーションソフトウエアを作れ」と言われました。会社ではできないから、家ではずっと勉強していました。

三宅:うわっ……大変そうですね。

八木:すさまじかったです……。なので「もう勘弁してくれ」と直属の上司に訴えましたが、「八木と八木だからしょうがない」とか言われて(笑)。しかし結果的にはすごくいい勉強になりました。

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