田村淳が伝えたい「悲しいだけの葬儀」の違和感 疑似体験できるように描写した母と最期の別れ

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2019年4月、淳は慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究科に入学した。死に方や弔い方の選択肢が今の社会には少なく、そこを拡充するサービス「遺書の動画」を研究したいと思ったからだ。

45歳になって始めてパソコンを持ち歩く生活が始まり、課題に悪戦苦闘しながらも、発見の連続が多い日々を過ごしていた。世の中や社会の見え方がそれまでと大きく変わった。生み出したのが2020年8月にローンチした、遺書を動画にして、大切な人に想いを届けるサービス『ITAKOTO』だ。

名前に込められているのは、「残された方に“言いたかったこと”」「この世に“いたこと”」「今を生きる人にメッセージを伝える“イタコト”」。遺書動画を通じて死生観をアップデートすることで、大切な人に言い残したことや後悔がないか、自分の人生を改めて考えるきっかけをつくり、明日を生きる活力に変えてもらいたいという希望を込めた。

「サービスを開始してから集まった2000人くらいのデータを見ると、自分の生きる道が明確になった、こうやって自分は生きたいんだと客観視することができた、という感想が8〜9割ありました。遺書は残された人のために書くものだけど、実は自分のためにもなるってことです。この点も、今後のサービスで推していけたらいいなと考えています」

修士論文のテーマは「遺書の新しい概念」

淳は慶応義塾大学大学院2020年度修士論文として、『ITAKOTO』による遺書の新しい概念のデザイン「死者との対話」をテーマに発表している。YouTube活動を一時離脱するなど真剣に修士課程に臨んだ。

「論文って何を書けばいいのだろう?」と、1行目からどう書いていいかわからない状況からのスタート。執筆中の4カ月くらいは、仕事が終わって論文、仕事が終わって論文の繰り返しで地獄のような日々だったと、笑いながら話す。最後の最後、ギリギリまで走り抜けた時間は、結果的に淳を大きく成長させた。

「研究は、1つのテーマを掘り下げて、いろいろ調べてデータをまとめて発言したりディスカッションを繰り返したり。それまでの僕の発言ってどちらかというと感情に訴えかけるような喋りをしていたのが、多少ではあるけどデータを元に話せるようになった気がします。例えば2000人の遺書をデータとして把握したうえで喋っているので、揺るがない自分でいられる」

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