「ルワンダでタイ料理屋!?」シングルマザーの選択 「異世界転生」級に人生リセットして得たもの

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大手企業の正社員は世間から見れば安定した地位ではあったが、競争の激しい社会でシングルマザーとして生き抜いていける自信がなかった。どこへ行っても「自己責任」という言葉が立ちはだかり、行き場がなく、八方塞がりと感じた。何をどこから変えればいいのかわからなくて、途方に暮れていた。

友人に遊びにおいでよと誘われて休暇をとり、忙殺される日々から抜け出し、日本から遠く離れたルワンダで空白の時間に身を置いたとき、自分の内なる声が聞こえた。そしてそれに、自分でも驚くほど何の抵抗もなく従った。それが、「そーね。ルワンダに引っ越そう」だったのだ。

これまでのキャリアとまったく異なることをする。見知らぬ場所でゼロから始める。経験を積み、それを土台に次へとキャリアップするのが王道の中、「この人はおかしいのでは……?」という目を散々向けられた。自分でもそう思う。でも、八方塞がりを脱するには、これまでの延長線上へ行くのでは足りない。ワープして異次元にぶっ飛ぶくらいの変化が欲しいと思ったのだ。

モノサシをぶっ壊して人生をリセット

そんな私を待ち受けていたルワンダでの冒険。「ワープ」と呼ぶのにこれ以上ふさわしい環境はあっただろうか。インフラも、人々も、文化も、商慣習も、何もかもが違う世界。会社員時代は間違えることにいつもおびえていたけれど、こんな状況だと、正解も間違いもへったくれもない。何もかもが違うという前提条件が、私に勇気をくれた。

だがそれにしても、前提を共有しない相手とのコミュニケーションは想像を絶する大変さだった。飲食店なのに、水も電気も止まる。スタッフはいつも斜め上からの行動をぶちかましてくるし、施工業者や大家にだまされたりもした。でも、自分で決めて自分で来たんじゃないか! と自分を鼓舞して、とにかく無我夢中で走った。

走っているうちにだんだん見えてきた、ルワンダの人々の強さ。自分は日本では人材事業に携わり、就職や能力開発のマーケットと向き合ってきたが、そんなものルワンダにはまるでなかった。

生まれた時点でどんな人生になるのか、ほぼ決まっている世界。蓄えもない中、自分が食う、そして家族を食わせる日銭をどう稼ぐか、1日1日を必死に生きる人々。新型コロナという未曽有の危機にルワンダももれなく見舞われるが、過酷な環境の中助け合い、とにかく前を向いて、今日という日を乗り越えていく人々の底力に言い表しようのない衝撃を覚えた。日本で自分が悩んでいたことなんてちっぽけすぎて、いつどこに消えていったかも覚えていない。

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