「アジア半球」が世界を動かす 新世紀亜細亜地政学 キショール・マブバニ著/北沢格訳~非西欧人の目からアジアの壮大な復興を示唆
評者 中岡 望 東洋英和女学院大学教授
「アジア勃興」や「西欧没落」を論ずる本が数多く出版されている。特に国際金融危機以降、西欧の危機管理能力の欠如が鮮明になり、この種の議論が勢いを増している。昨年、オバマ米大統領はG8の時代は終わり、これからはG20を中心に国際的な問題を処理することになるというアメリカの立場を明確に表明した。これは「西欧没落」を裏付ける政策の変更であった。
本書は類書と趣を異にする。本書が執筆されたのは金融危機が勃発する前であり、そこで主張された事柄は、その後の世界情勢の展開で裏付けられる結果となった。いわば新しい時代の到来を予言する書であった。
著者は日本語版への序文で「世界的な金融危機は、本書の主題のいくつかの正しさをはっきりと証明」し、「本書が自信をもって予言した西欧による世界史支配の時代の終焉が、一層はやまることになった」と書いている。
本書の特徴は、単に経済的な中心が西欧からアジアに移りつつあるという議論にとどまらない。金融危機によって西欧の経済的イデオロギー(市場主義など)が破綻し、アジアの市場は“すぐれたガバナンス”によってバランスを取らなければならないという、現実的なアプローチの正しさが証明されたと主張する。そして「旧来のG8は世界規模の難題に対処するには不適切であり、無力な存在になった」と断じている。
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