「アジア半球」が世界を動かす 新世紀亜細亜地政学 キショール・マブバニ著/北沢格訳~非西欧人の目からアジアの壮大な復興を示唆

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 本書は、そうした西欧の没落の背景に西欧の“精神的な閉鎖性”が存在すると指摘する。歴史的、文化的な背景を踏まえながら「非西欧人の目から世界を説明」することが本書の狙いである。さらに世界の問題の多くは西欧に原因があると考え、「西欧が世界史を支配する時代」が終焉し、「アジア社会の壮大な復興」が始まると語りかける。その厳しい論調ゆえ本書は西欧の論者から“反西欧的”との厳しい批判を浴びた。

著者はシンガポール国連大使を務め、現在、リー・クアンユー公共政策大学院長の職にあり、欧米ではアジアを代表する論者と扱われている。本書の主張に異論を唱えることは可能だが、この論旨に大きな知的刺激を受けることは間違いない。

ただ残念なことは、著者が主張するアジアには日本が含まれていない。本書の解説で緒方貞子国際協力機構(JICA)理事長は「日本は、西欧からもアジアからも孤立している……、異なる視点から西欧とアジアを見るだけでなく、その中における日本の位置づけを今あらためて徹底的に考えなおすという意味において好機ということである」と指摘している。本書は日本を考える意味でも良い素材となっている。

Kishore Mahbubani
国際政治学者、リー・クアンユー公共政策大学院(シンガポール)院長。1948年生まれ。シンガポール大学、カナダ・ダルハウジー大学院に学ぶ。71年から2004年までシンガポール外務省に勤務し、この間、同省事務次官、シンガポール国連大使などを歴任。

日経BP社 2310円 389ページ

  

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