妻夫木聡と岡田准一の会話に見る「敬語」の難しさ 敬語は「敬意」ではなく「距離感」の表れ?

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その結果、ちまたには、いつ、だれに、どのくらい、どの敬語を使うべきなのかに関して、さまざまな意見があふれている。

『「自分らしさ」と日本語』(筑摩書房)書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします。

電子掲示板の『発言小町』で敬語に関する意見を分析した研究(Okamoto & Shibamoto-Smith 2016)によると、「病院で医療従事者が年配の患者にため口で話しているのは失礼だ」という意見と、「患者に親しみを感じてもらうためには良い」という意見。

「ご飯を「いただく」というのはとりすましている、「食べる」で良いじゃないか」という意見と、「「いただく」は美しい日本語だ」という意見。

「弟の嫁は私より年下なのに、私にため口を使うなんて失礼だ」という意見と、「私より年下の弟の嫁は、私にため口を使うが、まったく気にならない。もし、私に敬語で話したらよそよそしい感じがして嫌だ」など。

日常生活のあらゆる場面で、敬語の使い方について異なる意見が投稿されている。

「正しい敬語」で得をしているのは誰か?

一方では、「日本には、それぞれの場面で使うべき正しい敬語のルールがある」という考え方があり、もう一方で、それぞれの場面で何が正しい敬語なのかについては、さまざまな意見がある。さらに、社会人になったら、それぞれの場面で正しい敬語を使わなければならないという圧力がある。

このような状況が、いわゆる、「正しい敬語」のマナー本を永遠のベストセラーにしている。「正しい敬語」が「ある」ことになっている状況で、「正しい敬語」を使わなければならなくなった人が、参考にするからだろう。2000年以降に出版された敬語のマナー本61冊のタイトルを調査した研究によると、このうち10冊のタイトルに「正しい」が用いられている(Okamoto & Shibamoto-Smith 2016)。

皮肉にも、敬語イデオロギーの矛盾によって一番得をしているのは、「正しい敬語」のマナー本を出版している人たちなのかもしれない。

(文中敬称略)

【参考文献】
Okamoto, Shigeko and Janet S. Shibamoto-Smith. 2016. The Social Life of the Japanese Language: Cultural Discourse and Situated Practice. Cambridge : Cambridge University Press.
中村 桃子 関東学院大学教授

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なかむら ももこ / Momoko Nakamura

専攻は言語学。1955年東京都生まれ。上智大学大学院修了。博士。著書に『「自分らしさ」と日本語』(ちくまプリマー新書)、『新敬語「マジヤバイっす」————社会言語学の視点から』『翻訳がつくる日本語———ヒロインは女ことばを話し続ける』(白澤社)、『女ことばと日本語』(岩波新書)、『「女ことば」はつくられる』(ひつじ書房、第27回山川菊栄賞受賞)、『〈性〉と日本語――ことばがつくる女と男』(NHKブックス)、『ことばとフェミニズム』『ことばとジェンダー』『婚姻改姓・夫婦同姓のおとし穴』(勁草書房)など。訳書に、『ことばとセクシュアリティ』(三元社)など。

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