JAL、大赤字なのに「強気中計」を出す複雑事情 頼みのLCCも「劣等生」の寄せ集めで前途多難

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公募増資などで1億株を新規に発行した結果、発行済み株式は約3億3700万株から3割近く増えた。依然として株価がコロナ前比で約30%落ち込む中、経営陣にとって株主価値の回復は喫緊の課題といえる。

決算会見中、EPSの目標達成を繰り返し強調した赤坂祐二社長。写真は2020年10月の会見時(記者撮影)

株主に報いるべくJALが強く意識する指標が、EPS(1株当たり純利益)だ。実は2024年3月期のEBIT1700億円という高い目標値も、ここまで稼げばEPSが260円、つまり「ほぼコロナ前と同じ水準になることを意味している」(赤坂祐二社長)。

赤坂社長は会見中、EPSの目標達成を繰り返し強調した。あるJAL幹部も「そこ(株主価値の回復)以外に何を訴えるんだと。公募増資というのは、それだけ株主にとっての一大事だ」と、経営陣の責務の重さを打ち明ける。

ただ、利益目標の達成には茨の道が待ち受ける。まず、JALブランドの完全復活が見通しにくい。リモート会議が普及したコロナ後の航空市場で、出張客狙いで高単価を設定してきたJALブランドがどこまで回復するかは不透明だ。

気がかりなのはグループLCC各社の採算性

成長の柱と見据える非航空事業領域も決め手に欠ける。マイル・クレジットカードなどの金融や、物販、地方創生、ドローン物流など、手数は多い。が、中にはJALによるシェア獲得の展望はおろか、そもそもの市場規模や成長性をつかみにくい領域もある。

カギを握るLCC戦略だが、JAL系の春秋航空日本(上)やジェットスター・ジャパンには課題も多い(記者撮影)

カギを握るのが、もう一つの成長柱とするLCC(格安航空会社)だ。低運賃のLCCは従来、コロナ後の早期回復も見込まれる観光・帰省客に強い。

JALは少額出資してきた中国系の春秋航空日本を、6月にも追加出資で子会社化する。傘下のジップエア・トーキョー、50%を出資する豪州系のジェットスター・ジャパンと合わせ、2026年3月期にグループLCC収入を約1500億円へ倍増させる計画だ。

気がかりなのが各社の採算性。ジェットスターの営業利益率は、コロナ前の2019年6月期まで4期連続で1~2%台と、競合に比べ低い。春秋航空に至っては、毎期数十億円の赤字を垂れ流してきた。

JALは両社に増収やコスト削減の余地があるとみる。しかし、2020年に就航したばかりのジップエアと合算し、2024年3月期までに100億円の利益成長を担わせる計画は、やや楽観的だ。

それでも、株主がコロナ後のJALにかけた期待に応えることは、経営陣への至上命令だ。「劣等生」を束にしたLCC戦略で早期に結果を出せるか。中計達成への第1関門となるだろう。

東洋経済プラスの短期連載「航空異変」では、以下の記事を無料でお読みいただけます。
JALの金庫番が明かす「大型増資」決断の舞台裏
財務データでわかる「大赤字」 ANAとJALの格差
JALが先手「増資」1680億円の胸算用
森田 宗一郎 東洋経済 記者

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もりた そういちろう / Soichiro Morita

2018年4月、東洋経済新報社入社。ITや広告・マーケ、コンサル、エンタメ産業などを担当。過去の担当特集は「アニメ 熱狂のカラクリ」「氾濫するPR」「激動の出版」「パチンコ下克上」など。

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