乳製品を「大量廃棄」中国人気番組が炎上の訳 オーディション番組の投票方法が社会問題に

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中国では元々「食べ残し=豊か」と見なされ、食べ残してなんぼの風潮があったが、足元では災害や農家の高齢化によって、食料不足の懸念が高まっている。

さらに最近はSNSで大食いコンテンツが人気化。日本では2017年にサイゼリヤで大量の料理を食べ残したYouTuberが炎上したが、中国でも同様の行為が広がり、習近平国家主席は昨年8月、食料浪費の断固阻止に向けて法整備を命じる重要指示を出した。その後、SNSの大食いコンテンツは次々に削除され、飲食店でも節約キャンペーンが広がった。

ファンたちの怒りは募る一方

中国の国会に相当する全国人民代表大会常務委員会は4月29日、飲食店での大量の食べ残しを禁じる「反食品浪費法」を可決・成立した。違反者に最大10万元(約160万円)の罰金を科すことを盛り込み、大食いコンテンツの配信も規制の対象となる。

乳製品を排水溝に捨てる動画が拡散したのは5月1~2日だ。実は乳製品に投票権がついていたオーディション番組は同時期に他にも放送されていたが、4月にはすでに番組が終了しており、まだ放送が続いていた青春有你にとっては最悪すぎるタイミングだった。

政治的背景を考えると、番組が中止に追い込まれたのは致し方ないと言えるが、後始末は簡単ではない。橋本裕太は20人に絞り込む選別で涙を飲んだが、オーディションで健闘したことでSNSウェイボ(微博)のフォロワーは100万人を超えた。番組の人気のほどがわかろうというものだ。

中国メディアによると練習生上位9人の投票数は計5600万を超え、蒙牛の乳製品約2億元相当(約32億円)が投じられた計算になるという。番組配信だけでなく、最終決戦を取りやめたとなると、“推し”に大金をつぎ込んだファンも黙ってはいられない。混乱は当面続きそうだ。

浦上 早苗 経済ジャーナリスト

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うらがみ さなえ / Sanae Uragami

早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社を経て、中国・大連に国費博士留学および少数民族向けの大学で講師。2016年夏以降東京で、執筆、翻訳、教育など。中国メディアとの関わりが多いので、複数媒体で経済ニュースを翻訳、執筆。法政大学MBA兼任講師(コミュニケーション・マネジメント)。新書に『新型コロナVS中国14億人』(小学館新書)。
Twitter: @sanadi37

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