受益者の観点では、ワクチン接種を行わない者や、接種したくても自己の免疫状態などによって接種できない者の取扱いについて、差別を防止する取り組みみなど、十分な配慮が必要だ。例えば、自己の免疫状態によってワクチン接種が不可能な者に対しては、ワクチン接種証明書という概念の中に、ワクチンの代替手段としてのPCR陰性者や、既感染者を含めるか否かという議論が必要となってくる。
日本政府も目下、コロナワクチン接種証明書の発行を検討しているとのことである。政府高官によれば、技術論では「デジタル」を採用し、地理的範囲は「海外渡航」での使用を想定しているようだ。
「パスポート」と呼ばれることもあるが
しかし、2021年2月時点では、そもそもコロナワクチン接種証明書の発行自体を否定していたものの、翌月にはその活用に舵を切るなど、危機に関する流動的な国内・国際情勢に合わせて状況の変遷があるため、今後の状況次第では、現時点の検討内容が変わることも十分ありうるだろう。
日本では、ワクチン接種証明書に加え、ワクチン「パスポート」と呼ばれることも多いが、パスポートという文言の使い方は混乱を招くため、その使用には慎重さが必要だ。「パスポート」は海外渡航のニュアンスを含むが、「接種証明書」は海外渡航・国内移動の両方を包含する概念であり、国際的にも「接種証明書」が用いられている。
WHOは、紙であれデジタルであれ、各国はワクチン接種証明書を発行するべきであるというスタンスだ。すなわち、国内移動に使用するか否かを問わずワクチン接種証明書は発行されるべきである一方、海外渡航には現時点では使用すべきではないというスタンスである。
しかし、そんなことはお構いなしに、各国は、海外渡航向けのワクチン接種証明書に関する政策をプラグマティックに進めている。ワクチン接種証明書は、暴れん坊将軍のように関所役人にあの手この手で迫れば所持していなくてもごまかせるというものではないが、実際の江戸時代の通行手形のように偽造したり所持していなかったら死罪というほど厳しいものではない。
しかし、それを有している者だけに関所の通過を許すという政治的潮流はますます大きくなっている。日本もその国際政治の潮流からは逃れられないだろう。そうであれば、なるべく早く参入し、国際的な規格を自国に有利なものに誘導すべく、活発な外交活動の展開を期待したい。
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