話題の「ワクチン接種証明書」とはいったい何か 各国が検討し始めている現代版の「通行手形」

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WHOは慎重な姿勢を見せているものの、経済停滞にあえぐ各国、特に経済界は、ワクチンの完璧なエビデンスが確立するまで待つなどという悠長なことはできない。

そのため、プラグマティックに政策を遂行すべく、独自に動いている。それに対して、WHOも、江戸幕府とは違って警察のような強制力を有する法執行機能ではないため、各国及び民間企業が自由に行う事業に介入できないのが実態である。

また、万が一、WHOがIHRによる法的な権限を盾に国際的な調整機能を発揮し、コロナワクチン接種証明書を発行する主導権を握ろうとしても、各国政府及びワクチン製造企業から、相当な政治的抵抗が予想される。なぜなら、IHRに基づきワクチン接種証明書を発行してもらえるワクチン製剤は、WHOの承認(PQ)を得る必要があるからだ。

現在、欧米・中国・ロシアで開発されたコロナワクチンが世界中で接種されているが、これらのワクチン製剤の中で、WHOの承認を得られる製品と得られない製品が明確に分かれるはずである。このような事態は、後者を導入している国や開発企業から明確に嫌われ、政治的非難を受けることが予想される。WHOがこのような政治的リスクを取ることは常識的には考えづらい。

国際社会においてはやったもの勝ち

WHOがその政治的リスクを回避し、各国によるワクチン接種証明書の発行・使用がIHRに基づかずに事実上実施される場合は、国際法的には想定外の状態となる。しかし、法執行機関が存在しない国際社会においてはやったもの勝ちだ。各国政府は実を取り、IHRが骨抜きになるだけの話である。

一方、例えば中国製ワクチンの有効性を欧米諸国が信用せず、中国製ワクチン接種者の欧米への渡航を認めないなど(逆もまた然り)、各国政府が特定のワクチン製剤のみにワクチン接種証明書を発行する場合は、国際社会が政治的にブロック化する可能性もなくはない。

海外渡航に関するワクチン接種証明書に関する議論は、まだまだ混沌とした状況なのである。

このような状況下、日本でもワクチン接種証明書の議論が始まっている。しかし、残念ながら、その多くの議論では、その内容が論理的に整理されておらず、種々の要素をごちゃまぜに議論してしまっているようだ。

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