しかし、現時点においてWHOは、以下の理由から、ワクチン接種証明書を使った海外渡航に対して慎重な姿勢を見せている。
①科学的観点:依然としてコロナワクチンの感染予防効果等の有効性や持続期間など、多くのエビデンスが確立していないこと。
②倫理的観点:供給量が限られるコロナワクチンに対して接種証明書を発行してしまうと、すでに課題となっている国家間の平等なワクチン供給がさらに悪化するおそれがあること。ワクチン接種をしない、あるいは、できない個人に対する差別や不利益を助長するおそれがあること。
③法的観点:IHR改正の必要性に加え、IHRに基づきワクチン接種証明書が発行されるワクチン製剤は、WHOの承認(PQ)を取得する必要があること。
④技術的観点:イエローカードのような紙のワクチン接種証明書ではなく、アプリ等を利用したデジタルのワクチン接種証明書を活用する場合のスペックや相互互換性、個人情報保護、偽造防止策、データ管理主体等の各種規格について国際的な合意がないこと(WHOは国際的に規格の標準化を図るべく、「スマート・ワクチン接種証明書(SVC)」というプロジェクトを発足させている)。
「免疫証明書」とは何か
ワクチン接種証明書と似た概念として、個人が感染症に対する免疫を有しているかを示すための「免疫証明書」というものがあり、両者はしばしば混同される。「免疫証明書」は各国もWHOも推奨しないという立場であり、注意が必要だ。なぜなら、ヒト個体毎の免疫状態によって、ワクチンや感染によって免疫がつく人もつかない人もいるためだ。
例えば、医療従事者はB型肝炎ワクチン接種が必須だが、何回打っても免疫がつかない医療従事者も多くいる。このように、「免疫証明書」は個体の肉体的性状によって差別を助長する一方、「ワクチン接種証明書」は、免疫がつくか否かにかかわらず、ワクチン接種を行ったという行為それ事実を証明するため、誰であれ証明書を獲得することができる。
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