ワクチン接種証明書を議論する際には、科学的内容に加え、以下の4つの軸を意識し、混同しないように議論することが重要である。
② 技術論:アナログ(紙)vs. デジタル(アプリなど)
③ 地理的範囲:海外渡航 vs. 国内移動
④ 受益者:利益を享受できる者(ワクチン接種可能者) vs. 利益を享受できない者(ワクチン接種不可能者)
各国はどうしているのか
法的議論については、国際法についてはIHRがあるが、国内法上どのように位置付けるかの議論が必要だろう。紙のコロナワクチン接種証明書が実際に発行されているアメリカでは、「連邦政府は海外渡航向けのワクチン接種証明書を発行しない(国民に求めない)」と述べているが、同時に、「ワクチン接種証明書の公平な使用のための標準化作業について、民間企業と連携する用意がある」とも述べている。
これは、民間主体で海外渡航向けワクチン接種証明書を発行させつつも、連邦政府が指針等を発行するなどして、その標準化の調整とお墨付きを与える実質的権限は連邦政府であると読み取ることができる。すなわち、わざわざ厳密に法律に位置づけなくとも、ソフト・ローで対応していくような姿勢が見て取れ、参考になる。
技術論については、デジタルの議論がよく見られるが、イエローカードで用いられているように、紙という簡便な手段では本当にダメなのかについても、きちんと検討する必要があるだろう。
地理的範囲については、ワクチン接種証明書を国内移動向けに使用することは、一般的に、経済活動の回復のために役立つと言われている。例えば、イスラエルでは、ワクチン接種証明書保持者に対してはレストランやコンサートなどへのアクセスが緩和されているという。
しかし、ワクチン接種によってマスク着用などの公衆衛生措置をすべて緩和していいわけではないことには注意が必要であり、国内移動向けに使用するか否かは各国で対応が分かれているようだ。
一方、海外渡航向けの使用は、すでに国際政治上の潮流が出来上がりつつある。EUでは、EU域内における各国間の安全かつ自由な渡航を円滑化させるためのワクチン接種証明書である「デジタルグリーン証明書」の導入を提案している。これは、EU域内では国内移動にも海外渡航にも併用できる可能性のあるものとして、EUという地域機構の強みが生きている。
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