益子直美さんがミズノの大会に違和感を抱く訳 「怒ってはいけない」同じ大会名でもこうも違う
益子さんは過去の「監督が怒らない大会」で、怒っている監督がいたらそれを指摘し、時には彼らと話し込んだ。見回るときは言葉のきつさや声の大きさよりも、子どもの顔を見る。監督のアクションをどんな表情で受け止めているかをよく見るようにした。そして、怒った監督には赤い×印を入れたマスクを着けさせた。
2015年に開催した第1回大会では、あるチームの監督に「怒りましたよね」と指摘したら「怒ってないよ」と逆切れされることもあった。ふんぞり返って話を聞いてくれない人もいた。だが、ひるまず向き合った。
2回目を開催すると、逆切れした監督のチームも参加していた。理由を尋ねると「子どもたちが出たいと言ってきた」と話した。指導者たちが変化を受け入れようとし始めたと感じた。
最近では、怒るのを我慢し続けたコーチが「接戦のタイムアウトで、選手にかける言葉が見つからなかった。なんと言えばよかったのか」と自らの葛藤を益子さんに吐露することも。それまでは「気合が足りないぞ!」と怒っていた。
「そんなふうに大人もチャレンジをして、怒らなくても指導する方法があると気づくきっかけになれば嬉しい」。そう話す益子さんも指導者らに新しい指導スタイルを伝えるため、メンタルコーチングや短い言葉でやる気を引き出すペップトークを学び、アンガーマネジメントファシリテーターの資格も取得した。
子どもたちにも変化が見え始めた。大会後にもらうたくさんの手紙の中には「監督は怒れないので、いつもより自分たちで声を出し合ってプレーできた」などと主体性を育んだ跡がうかがえる。このように指導者、選手ともに成長できるのが、益子カップの大きな特長だ。
ミズノ側は、筆者の取材に対し、小学生の全国大会を始めた理由を「野球人口が減っているので、野球界を盛り上げていきたい。野球人口を増やすには小学生の大会だという話になった」と説明した。だが、小学生が参加するトーナメント制の全国大会は、明らかに時流に逆行している。
筆者は小中高校生に対する不適切なスポーツ指導の問題を長年取材してきたが、サッカー、バスケットボールなど他競技では、育成の関係者の多くが小学生の全国大会の弊害を嘆く。全国大会があることで指導者が勝利に固執しがちになり、長時間の練習を強いたり、時に暴力や暴言で圧迫してオーバーユースや主体性を阻む傾向がある。
少年野球の指導現場にも暴言やパワハラがはびこる現実が横たわる。中高の指導者に尋ねると、誰もが「少年野球の勝利至上主義を変えなくてはいけない」と口をそろえる。
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