一直線に走るメインルートに対して、意味なく迂回をしているように見える大八廻りは、そのルートの不自然さから“我田引鉄”の例としてあげられることも多い。明治半ば、逓信省鉄道局長を務めた伊藤大八という政治家が、自らの地盤であった飯田に近いルートを通らせるべく、大八廻りでの路線建設を推し進めたのだ、というのがその理屈だ。
まあ、確かに地図を見ればそれもその通りだろうと思うのだが、迂回していない現在のメインルートは長大な塩嶺トンネルで急峻な峠を抜けており、明治半ばの土木技術でそれを求めるのは酷というもの。技術力に照らして現実的なルートになったものが大八廻りだという解釈が妥当だろう。
そしてこの大八廻りの途中、辰野駅からはJR飯田線が南に延びる。天竜川に沿って走る屈指の秘境路線で、4つの平の1つの伊那平をゆく。その南信地方の中心都市・飯田は長野・松本・上田・佐久に次ぐ長野県では第5の人口を抱える都市である。特急「伊那路」が走る飯田から先は天竜峡の渓谷沿いの旅となって、典型的な秘境の趣を味わえる区間となる。
松本から延びる上高地線
このまま飯田線の秘境駅を旅してもいいが、行き着くところ愛知県に抜けてしまうので中央本線に立ち戻る。塩尻駅で篠ノ井線に乗り入れて「あずさ」は終点の松本へ。長野・上田と並ぶ長野県内の大都市である松本には、やはり私鉄ローカル線が通っている。松本駅から西に延び、上高地を目指すアルピコ交通上高地線だ。
上高地線は梓川(千曲川の支流である)の生み出す河岸段丘を上ったり下りたりしながら標高を高めていき、上高地登山客のためのバスが発着する新島々駅を終点とする。
新島々駅の先には乗鞍高原が控えて岐阜県との境もほど近い。鉄路は通じていないが、乗鞍岳の南を回る道筋には野麦街道という名を持つ。諏訪の製糸工場に出稼ぎに出ていた飛騨の農家の娘が病に倒れ、ふるさとを目指した途中に命を落とした『あゝ野麦峠』の舞台である。
松本駅からは2本のルートが分かれている。1つはまっすぐに北を目指す大糸線ルートだ。大糸線は“大町と糸魚川を結ぶ”ということから名付けられたもので、松本からソバ畑の中をゆく安曇野を抜け、長野五輪のスキージャンプ競技の舞台になった白馬へ。途中の信濃大町駅は立山黒部アルペンルートの長野県側の起点である。
【2022年4月11日16時44分追記】初出時、大糸線の駅の並びの表記に誤りがありましたので修正しました。
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