臓器提供「コロナ禍で激減」の中に見えた課題 大事なのは臓器提供者とその家族の尊厳

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それでは、本人が家族と食卓を囲んだときなどの日常会話で臓器提供の話をするかというと、そのようなケースはまれだろう。臓器提供は一般的に、当事者にならないと「自分事」にはならないからだ。はたして、臓器提供を意思表示したことがあるか、またはそのようなことを話したことがあるかなどといった記憶をたどり、亡くなった本人の意思を汲み取る必要がある。それが本人の尊厳を守ることにもつながることになるのだろう。

最後に、日本臓器移植ネットワークに届いたドナー家族からのコメントを紹介する。この家族は、戦隊ヒーローが大好きだったわが子を思い、最終的に臓器提供を決めた。

「この子が生きていた証しをこの世に残してあげたい」

♢♢♢
私たち家族が愛する三男が事故により救急搬送されました。心肺停止での搬送で諦めかけていた中、救急隊員さんの懸命な心肺蘇生法で心臓が動き、搬送された病院の医療チームの治療で私たちに希望が見えてきました。臓器の回復の兆候がありましたが低酸素脳症からの復帰は残念ながらありませんでした。 
必ず戻ってくれると信じていたのですが、医師から脳死の状態に近く厳しいと告げられました。
その後に医師から臓器提供の選択肢もあるというお話をいただきました。脳死、臓器提供なんてテレビの話、なぜうちの子に。そんな思いでいっぱいで夫婦で迷いました。
しかし、この子が生きていた証しをこの世に残してあげたい、そんな思いで臓器を提供するのもいいのではと家族で相談し、必要としている人に提供し、その中で生きてくれればと決意しました。もちろん病院のスタッフさんの十分な治療も決断のひとつかと思います。
小児の臓器提供は少ないと聞いています。もちろん私たちもすごく迷いましたが、必要としている子供さん、親御さんの気持ちも少し理解できたように思います。医療関係者さんも経験がほとんどないかと思います。この提供で移植の技術の向上が進めばと思います。また、この提供で臓器移植の考えが多く理解され助かる命が増えればと思います。
戦隊ヒーローが好きだった息子、人の命を助けられるヒーローになってくれると思います。
♢♢♢
君塚 靖 えむでぶ倶楽部ニュース編集部 記者

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きみづか やすし / Yasushi Kimiduka

証券・金融畑の記者を経験した後、医療系記者に転身。2018年1月にメディカル・データ・ビジョンに入社。同社情報誌「えむでぶ倶楽部ニュース」編集部で医療・健康情報のデジタル化と位置付けられる、人が一生涯の健康・医療情報を自ら管理できるPHR(パーソナル・ヘルス・レコード)についてや、コロナ禍で非接触型医療の新たな形として注目されるオンライン診療などについて執筆している。同社の医療情報サイト「めでぃログ」ポータル(https://portal.medilog.jp/)向けにも記事を執筆している。

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