臓器提供「コロナ禍で激減」の中に見えた課題 大事なのは臓器提供者とその家族の尊厳

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家族が臓器提供を決断しなければ、脳死かどうかを判定する法的プロセスが始まらないのだ。これについて林氏は、「この国の法律は臓器提供を希望した場合にのみ、脳死が人の死であることを許容している。言い方を変えれば、日本では臓器提供を前提としない脳死は人の死として定義されていない。結果的に、残された家族は臓器提供を決断するだけでなく、愛する子供や大切な人の命日を決めさせる環境に追い込まれ、その心の葛藤は計り知れない」と手厳しい。

臓器提供の意思表示は、本人以上に家族のために

脳死での臓器提供を決断した家族の背景も多様だ。家族からすれば事故などという急転直下の事態に加え、懸命な救命措置も虚しく、脳死下での臓器提供を決断せねばならない環境に置かれることを思うに、本来それどころではないであろう。生前に明確な臓器提供の意思表示があればまた別なのかもしれないが、本人の意思を推し量る手段がほとんどないのが現状だ。そこにもし、本人が意思表示をしていたならば、家族の負担はわずかでも軽減されるかもしれない。

日本臓器移植ネットワークは今年、法改正以降の事案を対象とした初の全数調査「臓器を提供された方のご家族に対する調査」を実施した。亡くなった本人の家族、つまりドナー家族が臓器提供のときに抱いた葛藤、また、その後にどのような思いを抱いているのか、その家族の現状を明らかにし、今後の臓器提供におけるドナー家族への支援に役立てることを目的に、アンケート調査を実施した。

林氏は医療法を引き合いに出しながら、同調査を実施した背景を説明する。

「医療法の第1条2に、“医療は生命の尊重と個人の尊厳の保持を旨とする”とある。移植医療に限らず、すべての医療に対して言えることだが、私たち医療者1人ひとりは、人の命を救うことはもちろんのこと、個々の患者やその家族が大事に思う事柄や生き方などを尊重し、向き合っていくことが本分。ところが、医療の多様化と専門性が高まり、細分化が進む中、個人の尊厳を大切にすることをおろそかにしてきたのかもしれない。わが国で、がん医療の世界で緩和ケアが重視されるようになったように、臓器移植の世界でも救える命を救うだけでなく、救えなかった命と、これに向き合うご家族の尊厳も大切にしなければならない」と、移植医でもあった自身への自戒を込めて言う。

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