臓器提供「コロナ禍で激減」の中に見えた課題 大事なのは臓器提供者とその家族の尊厳
京都大学医学部附属病院は4月8日、新型コロナウイルス感染後の肺障害の患者に対して、生体間の肺移植を実施したと発表した。新型コロナ感染後、ECMO(体外式膜型人工肺)での治療を約3カ月続けたものの肺の機能が著しく低下し、回復が見込めない女性患者の親族の右肺の一部(息子)と左肺の一部(夫)をそれぞれ、患者の右肺、左肺に移植したというものだ。
新型コロナ感染後の肺障害に対する肺移植は、中国や欧米で20例から40例実施されているが、いずれも脳死下臓器提供による肺移植だという。ところが、日本国内では、脳死下臓器提供による移植が選択肢となりにくくなっている。
2020年の臓器提供件数は2019年比4割減
新型コロナは、臓器提供の現場に大きな影響を与えている。2020年の臓器提供件数は、脳死と心停止を合わせて77件で、過去最高であった前年(125件)に比べ約4割減少した。緊急事態宣言が発令された昨年4月から5月にかけて提供数が急減、その後も低水準の状態が続き、同宣言が再発令された年明けも依然として低調だ。
生体間の移植は、血縁関係のもとで行われる移植であるため、感染のリスクがあったとしても、おそらくは臓器提供者(ドナー)と移植希望者(レシピエント)の間で理解が得られやすい。しかし、脳死下臓器移植ではドナーとレシピエントの秘匿性から、双方の信頼関係に則って実施することができない。また、国内で新型コロナに対する重症者対策の一環として、制度面での検討が進んでいないのが現状であり、コロナ患者への脳死下臓器移植に踏み切れていない。
新型コロナへの対応で、臓器提供の場ともなる救急医療の現場が多忙を極めたことが主な要因と推測される。また、ドナーが感染している可能性もあるほか、その臓器がレシピエントにどのような影響を及ぼすか、データが積みあがっていないだけに、現場ではより慎重に対応せざるをえないのが現状だ。
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