日本の地位低下を映した「円安」が進む懸念 <為替相場と世界経済>篠原尚之・元財務官に聞く
――それをどう読むべきでしょうか。
日本銀行の金融緩和は以前からのことで、それだけでは説明できない。それよりも、日本のファンダメンタルズ(基礎的諸条件)が相対的に少しずつ弱くなっているのではないか。
もちろん、日本はまだ経常黒字国であり、雪崩を打って状況が変わるわけではないが、もはや安心して円を持てるのかという感じがして仕方がない。人口の高齢化で潜在成長率が低下し、財政赤字と政府債務の拡大で年金など社会保障制度への圧力が高まっている。貿易収支も赤字の年が増えた。日本の名目GDP(国内総生産)の規模はまだ世界3位だが、1人当たりGDPの世界順位はかなり下だ(2020年はドルベースで世界23位、IMF集計)。それでいて危機感があまりない。
財政支出の質が落ち、ゾンビ企業も延命
――アベノミクスの成長戦略も看板倒れに終わっています。
リーマンショック後に金融・財政面からカンフル剤を打ち、気持ちよくなってから構造改革をするのがアベノミクスの戦略と見られていた。ところが、気持ちいいままで終わってしまい、生産性の向上や経済のバランス修正には至らなかった。
本来、構造改革のためには、生産性の低い企業を整理したり、年功序列や終身雇用といった労働慣行を変えたりする必要があり、それなりの犠牲やコストを伴う。そこまでやるだけの政治的な力はなく、生産性の低い企業やゾンビ企業が残っている。今回のコロナ対策もそうだが、持続化給付金などの緊急の手当ては必要としても、最終的にゾンビ企業を増やさずに対策を終えられるかは怪しい。
また、経済対策で財政赤字が増えるのは仕方ないが、日銀が事実上の「財政ファイナンス」をやっているため、財政支出の質が落ちているような気がする。「アベノマスク」などは最たるものだが、ムダな支出が増え、生産性の低い企業が生き延びれば、経済全体の生産性はいつまでたっても上がらない。こうした状況を反映した円安が進むとしたら喜んでいる場合ではない。
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