意外と知らない「カウンセラー」驚愕する仕事内容 時には依頼者の親の死を一緒に喜ぶことも

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査定に賭けるものの大きさを考えれば、その厳しさは当然であり、私というカウンセラーがクライエントから合格点を与えられるとすれば、何よりうれしいことに違いない。正直に言えば、偉い先生や同業者からの評価はもちろん気になるけれど、クライエントからの評価ほどではない。

さまざまな範型が世の中には流通しているが、家族にまつわるものほど強固で無謬と思われているものはない。それは、ドミナントストーリー(支配的物語)と呼んでもいいほどである。

テレビのチャンネルを回せば、どの局でもそれらであふれかえっている。親を責めるなんてとんでもないことであり、家族には乾杯をしなければならず、夫婦はいろいろあったけれど最後は仲良くなるに決まっている、のだ。親は子どもをかわいがるに決まっているし、虐待をする親は異常な人間に違いないのだ。

一世を風靡した時代劇俳優が亡くなった際、娘が葬儀を欠席したことについて「どうして許せないのか」「最後くらいは看とってやるべき」「どれほど娘に会いたかったか」といった批判がワイドショーでは相次いだ。

多くのクライエントは、そのニュースを異口同音にこう評した。

「娘さんはよく葬儀を欠席したと思います。よほどのことをされたんでしょう。だって、葬儀に出られるものなら出たほうがいいに決まってますもん。きっと、父の行為を許したら自分がだめになると思ったんでしょう。それほどひどいことをされてたんだと思いますよ」

虐待やDV(ドメスティック・バイオレンス)がしばしばマスコミで話題になり、多くの殺人事件が家族間で起きているにもかかわらず、ドミナントな家族の物語はいっそう強固になり、補強されつつあるようにみえる。だからこそ、私たちカウンセラーは、何より家族にまつわる範型を豊かにしなければならない。身の丈を、見上げられるほどにまで伸ばさなければならない。

冒頭に挙げた2例は、その点で最も適切な試練を与えてくれるだろう。親を批判する、親についてどうしても許せない経験を語るだけではない。親の死という厳然たる事実をどのように受け止めるか、という問いかけだからだ。

絶えず生命の危機と対峙しなければならない

カウンセリングの基準の1つが、生命維持である。一般的には、こころの問題を扱うと考えられているカウンセリングだが、そうではない。少なくとも、私たちのカウンセリングは違う。絶えず生命の危機と対峙しなければならない。暴力をふるう息子からどのように母を守るか、今日にでも処方薬を大量服薬するかもしれない娘の命を守るために母に薬の管理を徹底させる、マンションから飛び降りるかもしれない娘のために母親はどのような言葉掛けをすればいいかを提案する、といったようにである。

クライエントも、その家族も、とにかく生きることを最大公約数とする。これがカウンセリングの原点であるし、そのために精神科医への紹介も積極的に行うのだ。

では、親の死を晴れやかに喜ばしいこととして語るクライエントにはどのようにかかわるのだろう。すでにおわかりのように、私はこう言うのだ。

「よかったですね」

おそらく私がそう言ってくれると信じているからこそ、2人はカウンセリングにやってきたのだ。私の言葉にうなずいた彼女は、「先生だけには、早くお知らせしたかったんです」とほほ笑んで、「だってこんなこと、誰にも言えないですよね? 母が亡くなってほっとしただなんて」と語った。

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