意外と知らない「カウンセラー」驚愕する仕事内容 時には依頼者の親の死を一緒に喜ぶことも

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カウンセラーは身の丈を伸ばすことが求められる。およそ一般常識からかけ離れたこのような言葉も、カウンセリングでは許される。そして、私たちカウンセラーが最も大切にしなければならないことは、最初に理論ありきではないということだ。

もちろん、専門家として多くの書を読み、学説に精通することは、プロの一般常識として必要であることはいうまでもない。しかし、目の前に座って苦しんでいる人が語ることを、とにかく聞くこと、そして聞いた内容を私なりに文脈化していくことが何より優先される。

文脈化とは、あたかも作家が物語を創作することに似ている。語られたプロットのリアリティーを損なわず、どのように断片をつなげていくか、つなげるにあたって何を接着剤として用い、類似の先行する物語をどのように検索するか。そして何より、物語は必ず範型(フォーマット)を必要とするものである。ゼロから立ち上がる物語などない。文法しかり、語法しかり、そして起承転結といった形式も一種の範型である。

カウンセラーの実力をどのように測るかという論議はあまり気乗りがしないが、あえて述べれば、このフォーマットが豊かであるかどうかにかかっているのではないか。

カウンセラーの身の丈は伸ばすことができる

ある文章にこんな1節があった。うろ覚えだが、「人の話は、結局、聞く側の身の丈以上の聞き方はできない」といった内容だったと思う。フォーマットの豊かさとは、要するに身の丈がどの程度の高さであるかということだ。身の丈=身長は成長期ならまだしも、成人してからは縮みこそすれ伸びることはない。それは、厳然とした客観的事実である。

しかし、私たちカウンセラーの身の丈は、どんどん伸ばすことができる。正確に言えば、クライエントの語る内容によって伸びることが要請される。おそらくクライエントは、カウンセラーのその点を鋭く査定しているのかもしれない。この人は、私の語る内容をどの程度まで許容し、どの程度までくぐりぬけてくれるのだろうか、と。

例えば、ある女性クライエントが「夫婦関係がうまくいかないのは、私が虐待されてきたせいではないでしょうか」と語るとき、どのように受け止めるだろう。

もしも、あるカウンセラーが「虐待は世代連鎖するもの、虐待された人は自己肯定感が乏しいので、当然夫婦の関係においても自己主張より相手の期待に沿おうとして無理が生じる」といった、すでに定型化された常識的で陳腐な虐待理論を範型としていれば、そのクライエントの自己肯定感の低さに焦点化しようとするだろう。

ところが、世代連鎖という一種の運命論的言説のまやかしを知って、その範型を超えていれば、親からの虐待と夫婦の関係を直接的に結びつけることに無理があるのではないだろうか、という見方を提出できるはずだ。それによって、これまで誰にも話したことのないことを、クライエントは語ることができるかもしれない。「私、実はレズビアンなんです」という発言のように。

クライエントの発言によって、このようにカウンセラーは身の丈を伸ばすことが求められる。カウンセラーが内心驚いているのに、なんとか動揺を隠そうとしていることなど、すぐに見抜かれてしまうものだ。身の丈を伸ばすことを求める時点で、すでにクライエントは可能性の有無を査定しているのかもしれない。なぜなら、カウンセリング料金を払ってまで、これまでの人生を賭けた援助を求めているのだから。

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