5万人ライブ開催も!「コロナ優等生国」の現在 ニュージーランドはコロナ前とどう変わった?

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4月19日からオーストラリアとの間の「トランスタスマン・バブル」が始まり、両国間の人の行き来が隔離なしに行えるようになった。とはいうものの、これは例外で、ニュージーランドはすでに1年1カ月以上、国境封鎖を続けている。

海外に出られないせいもあって、今ニュージーランドでは、国内旅行がちょっとしたブームだ。長距離バスやフライトの本数は減少し、これら交通機関を利用する際にはマスクの着用が義務付けられ、面倒だ。それでも、人々は国境封鎖をいい機会と捉え、今まで気づかなかった自国のよさを発見する旅に出ている。

通常であれば、海外旅行者向けにニュージーランドを売り込む、ニュージーランド政府観光局も、「ドゥ・サムシング・ニュー・ニュージーランド(在住の皆さん、何か新しいことをしましょうよ)」というプロモーションを在住者向けに行っている。国内の観光業の復興が狙いだ。

人手不足で農家が「悲鳴」

コロナ以前は、観光業はニュージーランド最大の輸出産業だった。409億NZドル(約3兆円)の利益をもたらし、労働人口の8.4%(約23万人)を直接雇用していた。ツーリズム・ニュージーランドは、観光業はこの国の復興に欠かせないものだという。海外旅行者が来ない場合は、年間129億NZドル(約1兆円)の大きなギャップができることを明らかにしている。

こうした中、国境封鎖による「人手不足」に喘ぐのが、農家である。昨年12月から今年2月の夏の時期に、収穫期を迎えた農作物や果物を収穫する人材が国内で見つからず、農家は悲鳴を上げた。中には、最終的に作物を廃棄しなくてはならなくなったケースもある。手塩にかけて育てた作物が食卓にのぼらないと知り、心を痛め、農家をやめてしまった農業経営者もいた。

簡単に見える、野菜や果物の収穫だが、実は経験豊富な労働者でなければ、効率よく作業を進めることはできないそうだ。そのため、「リコグナイズド・シーズナル・ワーカー」と呼ばれるプログラムを通し、太平洋地区のサモア、バヌアツ、ソロモン諸島などからの季節労働者が作業を行うのが通例だった。農業のほかにも国境封鎖が原因で人材が不足している産業には、建設業界やIT業界が挙げられる。

政府は国境封鎖を維持しながらも、昨年末から人材不足の産業を支援するために、該当の能力のある人材には便宜を図り、徐々に入国を許可し始めた。

ありがたいことに、「もうコロナ以前の生活には戻れない」という言葉は、今のところニュージーランドにはあまり当てはまらない。しかし、それは国境を閉ざしたままという、”人工的”な状況下でのこと。今後国境を開いてからも、「コロナ以前の生活」を維持することができるだろうか。

クローディアー 真理 フリーランスジャーナリスト(在ニュージーランド)

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Mari Clothier

東京の出版社/旅行情報提供会社に、海外情報を担当する編集者として8年間勤務。1998年よりニュージーランド在住。オークランドにて博物館勤務、地元 日本語誌2誌の編集者・編集長を務めた後、2003年よりニュープリマスに移り、フリーランスライターとして本格的にリサーチ・取材・執筆活動を始める。ニュー ジーランド航空やニュージーランド観光局の発行物やウェブサイト、ガイドブックや留学情報誌などの執筆を経て、現在は『PUNTA』、『WEBRONZA』 といったウェブ媒体、『クーヨン』などの育児誌、『ソトコト』などのロハス誌、『Monthly ALCOM WORLD』(アルク)などのクロスカルチャー誌などの印刷媒体に寄稿。

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