「韓国に大差つけられた日本映画界」低迷の真因 なぜ邦画は「アカデミー賞」に選ばれないのか?

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たしかに、近年の映画祭で実績を残した例だけでも、2018年『万引き家族』でカンヌ映画祭パルムドール(グランプリ)を受賞した是枝裕和監督と、2020年『スパイの妻〈劇場版〉』でベネチア国際映画祭銀獅子賞(監督賞)を獲得した黒沢清監督がいる。

「是枝作品に代表される繊細で奥深い人間ドラマは、日本映画としてひとつのブランドを作れる。それなのに、海外に向けてのプロモーションが弱い。例えば西川美和監督の新作『すばらしき世界』もこの路線のたいへん優れた映画で、もっと強く打ち出せば、アメリカなどで劇場公開する、またはグローバルなストリーミングサービスで配信するということもできるはず」(奈良橋さん)

『万引き家族』や『すばらしき世界』が描き出したのは、今回、アカデミー賞作品賞を取った『ノマドランド』と同じく資本主義社会から取り残された人間たちだ。つまりテーマ性においては世界に通じるものを持っている。

足りないのは「国によるサポート」

日本が韓国に比べて不足しているのは、国による公金を投じてのバックアップだと言われる。

映画制作から人材育成、海外進出までを支援する韓国映画振興委員会(KOFIC)は年間約400億円を支出。それに対して日本の文化庁が映画に出す助成金は約20億円だと言われる。単純比較で韓国のほうが20倍もお金を使っているのだ。

特にクリエーターに対する支援が足りていない。ポン・ジュノ監督の下で助監督を務めた経験があり、初監督作『岬の兄妹』で貧困の問題を鮮烈に描いた片山慎三監督は、現場での実感からこう語る。

「韓国で仕事したときの助監督仲間に連絡すると、数年ぶりに近況を聞いても、以前と同じ脚本を書いているので驚きます。彼らは国からの支援を受け、生活のための仕事に追われることなく、ひとつの脚本に3年から5年という時間をかけクオリティを追求している。日本でも同様の援助があれば助かりますね」

小説や漫画の映画化ではなくオリジナル映画を作るとき、脚本は全ての基になり、資金やスタッフ、キャストを集めるための最重要ツール。通常、物語の選定(原案)から始まって取材を重ね、セリフも交えた詳しいあらすじ(トリートメント)を作り、シナリオを何度も書き直し撮影用台本を完成させるまでに数年はかかる。

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