経験と勘の「理由なき人事」が会社から消える日 若い世代にはもうそれでは納得できない

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こうした変化に対峙していくには、ベンチャー企業と同じように合理的な人事に取り組むしかありません。こうして、合理的な人事が加速する動きが出てきたのではないでしょうか。

では、いったいどこから手を付けるべきでしょうか? まず、合理的人事ができるだけのデータをそろえることが重要です。しかも、時系列で眺められるくらい蓄積する必要があります。

ここまで繰り返し紹介してきたように、人事の世界は勘と経験の世界でしたから、データが不十分な状態なのは当たり前。採用するときに行った適正テストは残っていないし、上司と部下の面談履歴も断片的にしかありません。職場に対する満足度調査やアンケートもデータで保存できていない、といった調子です。

あるメーカーで「わが社の人事データを渡すから分析してほしい」との依頼を受けたことがあります。しかし中身を拝見すると、データの欠損や不足が多すぎて、分析不可と回答する事態になりました。仮にデータが残っていても分析を前提にしておらず活用が難しい場合が大半です。

そこで、大抵の場合、ゼロからデータを蓄積することになり、ある程度、時間がかかります。よく、「タレントマネジメントシステム」を導入すれば、すぐに人材配置や育成で成果が出ると考える人がいますが、それは大間違いです。上司との面談履歴、研修履歴、異動希望、キャリアプラン。さらに業務報告、マインド・モチベーション、360度評価などを時系列で蓄積します。こうしたデータを揃えていった先に、本人の志向や状況の変化を読み解いたうえでの適切な異動や人材育成を考えることができるようになるのです。

例えば、3年前は上昇志向が高く、いち早く管理職になりたいと考えていた中堅社員。勤務時間に縛りがなく、勤務地の異動も問題なしでした。ところが家族の問題で勤務時間に制限が必要になり、管理職になるどころか、現状の仕事を地道に行う志向に変化しました。だとすれば、当面は同じ職場で仕事をしてもらうのがいい、となります。ただし、家族の問題が解消すれば働き方に変化が生じる可能性があります。上司を通じて状況を把握することで、合理的な異動がタイミングよく行えることでしょう。

あるいは管理職手前でキャリアに行き詰まり感のあるKさん。彼について時系列で蓄積したデータを分析してみるとします。過去の上司が課題を指摘した共通の項目を整理して、課題を克服するために行うべき研修や異動先を示すことができれば、本人にとっても納得性が高く、意欲的に取り組める仕事が見えてくるのではないでしょうか。

「経験と勘」で考えた人事と、結果的に同じ結果になったとしても、「理由はないけど頑張れ」と言われるのと、根拠を示されるのとでは、意欲に大きな差が出ることでしょう。

スキルとキャリアを時系列でおさえておく

このようにデータを活用した人事はモチベーションアップに大きく寄与します。離職防止だけでなくモチベーションをあげて、それを生産性の向上につなげる手段に活用することには大きなメリットがあります。

ここまで読んで、データといってもはてしないのではないか……と思った方もいるかもしれません。ポイントは、モチベーションの源泉であるスキルとキャリアについてデータとして時系列でしっかりおさえておくことかと思います。

仕事を通じてどのように成長してスキルが身についてきたのか、今後どのような仕事をしていきたいのか?刻々と変化する状況を蓄積していくのです。

これができていれば、合理的な異動や育成の取り組みへ、確実な一歩を踏み出せることと思います。ぜひ会社にとっても社員にとっても有意義な成果につなげていきたいものです。

高城 幸司 株式会社セレブレイン社長

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たかぎ こうじ / Kouji Takagi

1964年10月21日、東京都生まれ。1986年同志社大学文学部卒業後、リクルートに入社。6期トップセールスに輝き、社内で創業以来歴史に残る「伝説のトップセールスマン」と呼ばれる。また、当時の活躍を書いたビジネス書は10万部を超えるベストセラーとなった。1996年には日本初の独立/起業の情報誌『アントレ』を立ち上げ、事業部長、編集長を経験。その後、株式会社セレブレイン社長に就任。その他、講演活動やラジオパーソナリティとして多くのタレント・経営者との接点を広げている。著書に『トップ営業のフレームワーク 売るための行動パターンと仕組み化・習慣化』(東洋経済新報社刊)など。

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