経験と勘の「理由なき人事」が会社から消える日 若い世代にはもうそれでは納得できない

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こうして説明責任を求められるようになった会社側にとって、データを活用=合理的な人事という言葉が琴線に触れるキーワードになりつつあるのです。ただこれは社員のためというだけにとどまらず、会社全体にとっても重要なことです。退職防止や対立の回避はイマドキの会社が目指す重要テーマである「生産性を向上」にも大きく貢献するからです。

転職先の高いベンチャー企業では…

合理的なアプローチというと、人事の世界では新しいことにも聞こえますが、マーケティングなどの世界であれば当たり前のことです。顧客データや購買データを徹底的に分析し、新商品開発や販売計画を合理的に立てていくのは当然で、経験と勘を頼りにやっていくのはもはや困難です。

先述のとおり、人事の分野も変わり始めたのは、若手社員が不満を抱いて退職が増えたことへの対策ですが、その退職先がベンチャー企業であることが悩ましく、取り組みを急がせる要因かもしれません。

例えば、大手不動産仲介会社に勤務しているある若手社員のケース。異動の通知をもらってから1週間以内に新たな職場に異動する生活をしてきました。不満があっても、その異動の理由を上司には聞きません。もし聞いたら、不満分子と思われて、冷や飯を食わされる、出世できないと先輩に言われたことがあるからです。

それでも勇気を出して理由を聞いても「理由は説明できない」とのこと。異動がブラックボックス化していると思うと不安ですし、その向こうで合理的な人事が行われているとも思えません。そもそも異動希望も、将来のキャリアも、一度も聞かれたことがないし、計画的な研修も行われていないのです。

上司の言動も大変怪しいものでした。あるとき、神戸支店に異動となった同僚について上司が「あいつは関西に親戚がいたからよかったよ」と嬉々としてコメント。が、その同僚は東京出身で関西に親戚はいません。「親戚は関西にいないと思いますよ」と上司に切り出すと「そうか。間違いかもしれないな」とのほほんと返してきたのです。誤解で同僚は関西に異動させられたのでは?と疑わざるをえなかったそうです。

そんなタイミングで、また別の同僚がベンチャー企業に転職。その職場環境はどんな感じか、SNSで聞いてみたそうです。

すると、異動希望やキャリアのすり合わせが頻繁にある。異動があるときには、希望を踏まえて、丁寧な説明があるので納得性が高いとのこと。

ベンチャー企業イコール人事は脆弱で、社員へのケアなんて不十分……と思い込みがちですが、状況は変わりつつあります。ベンチャー企業の人事部と話をしていると待遇面でかなわない分、知恵を絞っており、その一環として合理的な人事に取り組む会社が増えてきたように思います。

例えば、異動希望やキャリアについて頻繁に聞く機会を設ける。さらに役割の変更があれば丁寧に説明する機会を設ける。役割に不満があれば気軽に話せる状況を準備して、一緒に対策を考える、といったことです。

ベンチャーは大企業ほど組織が大きくないので、異動よりは役割変更で合理的な人事を行うケースが多いですが、経験と勘の人事に慣れた立場からすれば、納得性が高いかもしれません。

転職した後の実際の状況は、ネット上で簡単に調べることができる時代なので、こうした動きはますます加速していくに違いありません。

すでに、経験と勘の人事に辟易した若手社員が、ベンチャー企業に転職する流れが生まれつつあります。大企業側も、社員の転職先が聞いたこともないベンチャー企業で、引き留めようにもどうしていいのかわかりません。もはやベンチャー企業の人事を見習う時代になったのかもしれないーーそんな声を聞くようにもなりました。

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