資本主義の語を使わなかった「資本主義の父」 100年前からSDGsとCSVを説き続けた渋沢栄一

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日本国内の遊休資本を有効に利用するために銀行制度を導入し、第一国立銀行を手始めに各地に私立銀行を設立するのを支援し、全国に銀行制度を普及させました。その結果、150以上もの国立銀行が全国に設立され、各地域での殖産興業に大きな役割を果たしました。

渋沢は、銀行こそが合本会社を次々と設立して事業を実施する原動力になることを、フランス滞在中に学び、帰国後に自らが率先して実行したのです。

こうした合本主義の精神や手法は、企業活動でなく、渋沢自らが尽力した「民間」外交や福祉、教育などのフィランソロピー(慈善)の分野でも適用されていきました。

渋沢、張謇、カーネギーらが追求した公益

さて、ここで渋沢栄一の公益について考えてみましょう。おそらく渋沢にとって、公益とは、自立した「民」が平等に参画し、殖産興業により富源を開拓、世界や日本に住む人々が物資と精神両面で豊かになることと想像できます。

「公」とは、必ずしも国や政府だけを意味するのではなく、都市、村落、共同体も含まれた。さらには国を超え、世界全体も「公」の範囲に含まれていました。したがって、「公益」とは「国益」と必ずしも同じではなかったのです。

それでは、国益以外にも公益は存在するのでしょうか。公益は時代や立場の違いによって異なってきますので、1つにまとめることは難しいです。

たとえば、近代中国では、張謇(ちょうけん)も渋沢と同様に官僚を辞し、企業家として清末から辛亥革命を経て江蘇省南通地方における近代化・産業化に貢献しました。彼は師範学校を設立し、人材育成にも力を入れるなど、江蘇省にとっての公益を追求しましたが、なかなか中国全土には行き渡りませんでした。

アメリカでは、南北戦争後の再建時代から、いわゆる「金ピカ時代」に登場したアメリカの企業家たちは、今日のアメリカ経済社会の確立とそのグローバル化に大きな役割を果たしました。企業利益を拡大させただけでなく、アメリカ経済を発展させ、膨大な富をアメリカ社会にもたらしただけでなく、慈善事業など公益も追求しました。

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