資本主義の語を使わなかった「資本主義の父」 100年前からSDGsとCSVを説き続けた渋沢栄一

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渋沢と張は、儒教から「公共」と「慈善」という概念を、また、カーネギーやロックフェラーはキリスト教から、慈善を引き出し、その活動を実践しました。

彼らは商工業に従事する者も、政府も地方自治体も、さらには、民間企業も非政府組織も、必ず「公共的」な側面を念頭に置いて活動すべきと唱えていました。

言い換えれば、すべての社会団体は、公共の利益と利潤追求の見通しとを関連づけて、企業や企業家の社会的責任を明確にすべきであると考え、自らが行動したわけです。

SDGsやCSVは100年以上前に行われていた

公益は複数存在するのではないでしょうか。渋沢が公益をどのようにして決めたのかは、この問題を考える際のヒントとなります。それは公論の形成です。

渋沢は今何をすべきかに関して、明治政府に勤めていたときから、同じ志を持つ仲間と徹底的に議論を重ねて、国家社会を平和で人々が物質的にも精神的にも豊かになる事業計画を作成しました。熟議を重ねて形成された公論をもとに実行された事業により得られた利益を公益と呼んだのではないでしょうか。

それは、あらかじめ決まっていたものではなく、時代や場所によって異なり、公益自体の中身も変化していきました。したがって、時には政府の唱える国益を超えた世界に通用する公益を考えたのです。

このように考えると、現在の世界ビジネスパーソンの多くが注目しているSDGs(持続可能な開発目標)やCSV(共通価値の創造)は、すでに100年以上前から、渋沢栄一の「合本主義」で行われていたことに驚かされます。まさしく温故知新なのです。

木村 昌人 関西大学客員教授

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きむら まさと / Masato Kimura

1952年横浜生まれ。慶應義塾大学大学院法学研究科(政治学専攻)博士課程修了。法学博士(慶應義塾大学)、博士(文化交渉学、関西大学)。株式会社三井銀行勤務後、スタンフォード大学アジア太平洋研究センターおよびハーバード大学ライシャワー日本研究所各客員研究員、ミズーリ州立大学客員教授、文京学院大学教授、公益財団法人渋沢栄一記念財団研究部部長・研究主幹などを経て現職。主な著書に『渋沢栄一――日本のインフラを創った民間経済の巨人』(ちくま新書)、『日米民間経済外交1905~1911』(慶應通信)などがある。

 

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