「五輪反対」で池江璃花子を批判する人の理不尽 「奇跡の復活」彼女を悩ませる心なき声の正体

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東京オリンピック開催に向けて池江選手を前面に押し出している運営サイドも、東京オリンピック開催を阻止するために池江選手を批判する人々も、「1人のアスリートを利用している」という点では同じ。本来は池江選手の名前を持ち出さずに開催の是非を議論すべきなのです。それをせずに池江選手を巻き込み、批判している人々が多いのは、コロナ禍の長期化で心が貧しくなっているからなのかもしれません。

個人を傷つけたあとに弁明しても遅い

つらい日々を乗り越え、過酷なトレーニングに耐えられる池江選手なら、もし今年の東京オリンピックが開催されなかったとしても、前向きに受け止めて歩き始められるのではないでしょうか。もともと池江選手は病名公表後に、「最大の目標は2024年のパリオリンピック」と繰り返していたことも、その裏付けとなりそうです。

つまり、池江選手は「東京オリンピックを開催できるかもしれないのなら全力で準備する」「開催できなくなったら次のオリンピックに向けて切り換える」というシンプルな心境にすぎないのでしょう。やはりアスリート個人に厳しい声を浴びせるのは行きすぎた行為であり、何の解決にもつながらないのです。

日本選手権で見せた池江選手の泳ぎや涙に、日本はもちろん世界の人々が心を震わせ、勇気づけられたことは間違いありません。だからこそ世界の人々は、池江選手が厳しい言葉を浴びている現在の状況も見ているでしょう。日本人の冷酷さを伝える海外メディアが現れても不思議ではないのです。

少なくとも若きアスリート個人への心ない言葉は控えるべきですし、さんざん傷つけたあとに「あのときは「『東京オリンピック反対』という理由があったから」と弁明しても遅いのです。同様に「#池江璃花子選手は立派だが五輪開催は断固反対」というハッシュタグの「池江璃花子選手は立派だが」というフレーズも取ったほうがいいでしょう。

東京オリンピック開催うんぬんの前に、どんな理由があろうと、「罪を犯していない個人を多くの人々が寄ってたかって非難する」ことはあってはならないのです。それが大病を克服しつつある若きアスリートなら、なおのことでしょう。

木村 隆志 コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者

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きむら たかし / Takashi Kimura

テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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