個人が「コロナ抗体を売る」アメリカと日本の差 アメリカで注目を集める「血漿ビジネス」とは

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アメリカの場合、血漿献血は州によって違うが、基本的に年齢は18歳以上となっている。16歳と17歳は保護者の許可があれば可能で、上限の年齢制限はない。体重は110ポンド(約50kg弱)以上ないと受ける資格が得られない。過去にエイズ、B型、C型肝炎に一度でも感染経験のある人は、現在陰性でも受けることができない。タトゥーやピアス、ボディーピアス等を1年以内に行った人も、肝炎などに感染している可能性もあるため受けることができない。また、現在、血液に関する薬を飲んでいる人や妊娠している人も受けることができないという。

「初めにビデオで血漿献血の紹介があり、その後に医師の健康診断があるので、トータル3時間ぐらいかかりました。チェックが厳しくて、コンピューターで約100項目の質問に答えるという厳しいものでした。薬の痕が腕や足にないかということも医師からチェックされました」(回復したアメリカ人感染者)

1回の献血は30分~1時間ほどかかり、前日から水分補給をしっかりしておいてくださいと注意喚起される。1回に取れる血漿は約650〜850ミリリットルだ。コンピューターによるさまざまな質問条項の制作、献血者が入力したデータ管理は、マイクロソフト社がリードする非営利目的の関連会社に任せられており、大企業が営利目的でない形で大きく関わっている。

「以前のパンデミックのときは、血液のサンプル不足をビジネスチャンスとして献血を募り、1検体当たり数百ドルという高値で取引していた企業もありました。臨床検査を手掛ける企業は、回復患者の血液が高額になってしまい、治療薬開発の妨げになっているという新たな問題も出てきています」(アメリカ人ジャーナリスト)

創薬後進国となった現在の日本

10年前の日本はアメリカ、スイスに次いで世界第3位の開発品目数を誇る新薬創出国だった。現在はワクチンに関しては輸入に頼らざるをえないのが実情だ。英米の企業3社と約3億回の接種が可能な供給契約を結んだとはいえ、EUの輸出制限などもあり、実際にいつ、どれくらいの量が確保できるかはまだ不確定要素が多い。

「人助けだと思って血漿献血にはずっと通っていましたが、感染してから5週間が経って抗体はもうなくなったようです。抗体がなくなってから謝礼は65ドルに下がりました。その献血センターのアプリをダウンロードすると、自分の献血で何人の人が救われたのかがわかるのですが、『あなたの血漿で、2人の人が助かりました』という連絡がアプリに入って人命に貢献できたんだと実感しましたね」(回復したアメリカ人感染者)

日本では血液など、自分の体の一部を“売る”ことに対してはまだまだ抵抗がある。アメリカでは健康な人が医療を介して他者を助ける際に報酬が支払われることは当たり前だという。臓器移植、代理出産、新薬の治験などがスムーズに行われる理由はこのような考え方が根底にあるためだ。

新型コロナウイルスが世界中に広がったことで、皮肉にも日本が創薬後進国であることが浮き彫りになってしまった。中国やロシア、インドにも先を越され、このままだと世界との差は開くばかりだ。一刻も早くワクチン開発を成功させ、健全な社会活動が可能になるよう、創薬国日本の復活を願いたい。

草薙 厚子 ジャーナリスト・ノンフィクション作家

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くさなぎ あつこ / Atsuko Kusanagi

元法務省東京少年鑑別所法務教官。日本発達障害支援システム学会員。地方局アナウンサーを経て、通信社ブルームバーグL.P.に入社。テレビ部門でアンカー、ファイナンシャル・ニュース・デスクを務める。その後、フリーランスとして独立。現在は、社会問題、事件、ライフスタイル、介護問題、医療等の幅広いジャンルの記事を執筆。そのほか、講演活動やテレビ番組のコメンテーターとしても幅広く活躍中。著書に『少年A 矯正2500日全記録』『子どもが壊れる家』(ともに文藝春秋)、『本当は怖い不妊治療』(SB新書)などがある。

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