しかも、多くの人は、原因について間違った見方をしている。「円高になったのが悪い」と言う人がいるだろうが、そうではなく、経済法則に逆らう不自然な円安を続けたことが問題だったのである。とりわけ、巨額のドル買い介入を行ったことが間違いなのだ。
円安が生じた経緯についてこれまで長々と述べてきたのは、それを納得していただきたいからだ(なお、「ドルで評価すれば損していない」と頑張る人がいるかもしれないが、この議論を始めると神学論争になる)。
「将来の為替レートは予測できないのだから、結果として損失が生じたとしても仕方がない」という意見があるかもしれない。予測できないことは事実である。しかし、そうであるからこそ、リスクに応じた適切なリターンを求めるべきだったのだ。
アメリカ国債に異常に偏り、しかも、低利回りで満足していたのは、ファイナンス理論を少しでも勉強したらすぐにわかる愚かな資産運用だ。日本が低利回りで資金を提供したために、アメリカはネットの債務国でありながら、所得収支を黒字にすることができたのである(詳細は拙著『経済危機のルーツ』第4章を参照)。これほど愚かなカモは、人類の歴史を探しても見当たらない。
本来なら、責任者を召喚して追及すべきだ。とりわけ、巨額のドル買い介入を行った03年ごろの政権担当者と円安をあおったジャーナリスト・学者の責任を追及すべきだ。しかし、残念ながら、そうしたことはできないだろう。損失が巨額でも、将来の経済運営を改善できるなら授業料としてやむをえない。しかし、そうは期待できないので、天を仰ぐしかないのである。
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・本邦対外資産負債残高増減要因
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早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。
(週刊東洋経済2010年5月1日号 写真:今井康一)
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