「ごく普通の看護師」だったのは、神出病院事件の加害者たちも同様だ。公判の傍聴を続けた関係者によれば加害者6人はそろって、「服装に派手さもないし普通に道ですれ違っても気に留めない、どこにでもいるような男性たちだった。むしろ少々引っ込み思案ぐらいのタイプ」だったという。
そんな彼らが患者に対して凄惨な虐待をしたり、拘束中に金品を窃盗したりする現実を前にすると、もはや医療者個人の資質を問うこと以上に、患者の権利を擁護する仕組みの構築による対応が欠かせないはずだ。
そうした仕組みの代表例が、大阪府の「療養環境サポーター制度」だ。研修を受けた大阪精神医療人権センターのボランティアが、大阪府内のすべての精神科病院(60病院、2万床)を訪問し、立場上、自己主張しにくい入院患者の思いを病院に伝え、改善を見届けている。同制度の前身(精神医療オンブズマン制度)は2003年に始まった。
大阪府では制度が導入されて外部の目が入るようになったことで、患者のプライバシーを守るためのベッド回りのカーテンの設置が普及するなど、病院側も患者の療養環境の改善に真剣に向かい合うようになった。
「いい病院ほど訪問の受け入れにも積極的」
「いい病院ほど訪問の受け入れにも積極的だ。制度のないほかの都道府県では、各地の精神医療人権センターの訪問を拒否する病院が少なくない。患者のプライバシーを盾に訪問を避けようとする病院は、実は患者の権利擁護に取り組む組織が病院に入ることを嫌がっていたり、療養環境の実態を知られたくなかったりするのが本音で、やはり問題が多い」
大阪精神医療人権センター理事で看護師の有我譲慶氏はその意義を語る。
全国で唯一となる同制度が大阪府で実現した背景には、1990年代に大阪府のある精神科病院で社会を震撼させるような大事件が発覚したことがある。次回は国や自治体、警察、そして社会が「精神病院」を求めた、日本の精神医療の歴史を振り返りつつ、今も変わらない体質とそこで生じている現実を、つまびらかにしたい。
(第13回=最終回に続く)
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