今回の事件が精神障害の当事者やその家族に与えたショックは計り知れない。
「神出病院の事件は特異な事件ではなく氷山の一角であるという意見が圧倒的に多かったということです。家族は多かれ少なかれ、他科の病院と比べて医療従事者が日常的に暴言を吐いていると認識しています。密室で行われる絶対的立場の者が猛威を振るう病院に家族は安心して治療を依頼できるでしょうか。神出病院の関係者からは、まったくもって言葉を発してはいただけません。組織ぐるみの隠蔽と言わざるをえません」
兵庫県精神福祉家族会連合会はこうした声明を発表。南部和幸副会長は、「虐待があったというだけではなく、病院全体で隠そうとする体質が感じられ、それが大変恐ろしい」と話す。
「病気を治すために入る、治療のための場であるはずの病院で、犯罪行為である虐待が平然と行われたことは言語道断だ。精神障害の当事者としては、自分がいつ同様の被害に遭っていてもおかしくなかった訳で強い憤りを覚える」
自立生活センターリングリング(神戸市)のピアカウンセラーの船橋裕晶氏は語る。
神出病院事件を受け、厚生労働省が2020年に実施した調査によれば、精神科での患者虐待疑いは過去5年間で72件に及ぶ。だが病院側からの通報で明らかになったケースはその半数未満にとどまっている。
拘束中の患者から窃盗
さらについ先月にも、身体拘束中の患者の銀行カードを看護師が盗むという事件が発覚した。
精神科病院「藍野花園病院」(大阪府茨木市)に入院中、身体拘束されていた男性患者(48)の所持品からキャッシュカードを盗み現金40万円を引き出したとして、病院の看護師だった20代男性が窃盗容疑で今年3月中旬、大阪府警に書類送検された。
「このお金は退院してから一人暮らしするためにということで、生活保護のケースワーカーからアドバイスされて貯めていたものでした。そんな大切なお金だったので、愕然としました」
取材に応じた男性患者はそう憤る。男性は入院後に財布などをロッカーに入れて施錠していたが、身体拘束されている最中は病院側が鍵を預かっていた。拘束解除後に別の病院に転院した際、預金残高を確認したところ、身体拘束中の期間にコンビニATMから20万円を2回にわたって引き出されていることに気が付いた。
男性は認定NPO法人の大阪精神医療人権センターに相談し、弁護士が病院側に調査を求めたことで、同病院の看護師の関与が浮上した。病院は院長名で「患者様及びご家族様には多大なご心配をおかけしておりますこと、深くお詫び申し上げます。当院は、院内調査により事態を把握したのち、2019年12月に職員を懲戒解雇しております」と公表した。
男性によれば犯行に及んだ看護師は、「顔を知っているぐらいだが、若くて子どももいる、ごく普通の看護師だった」という。
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