精神科病院のスタッフが患者を虐待する事件は全国でも後を絶たないが、本件のように6人が関与し逮捕されるケースは極めて異例だ。だが、それでも本件事件の内容は、その後明らかとなった同病院が抱える数多くの問題からすると、ごく一端にすぎなかった。
事件以前から患者虐待が常態化
「6人の逮捕から1年経った今でも、神出病院の問題はまだ過去形で語れるものではない。われわれは解決のスタートラインにすら立てていないというのが、現地である神戸の人間の感覚だ。現地での関心は事件そのものよりも、この病院の体質や実態へと移っている」
兵庫県精神医療人権センターの吉田明彦氏はそう語る。
6人の刑事裁判で明らかになったのが、今回の事件のずっと以前から、神出病院では職員たちによる患者虐待が常態化していたということだ。
「入職したころから、他の看護師による患者虐待を目撃し続けてきた。からかいや暴力的な対応が日常的にあった」「先輩から『(虐待を)やってみろ』と言われ断れなかった。断ったら話をしてもらえなくなった同僚もいた」「患者をからかったり、おちょくったりして一人前、のようなところがあった」「主任や師長が率先してひどいことをしていた」……。
加害者の看護師たちが公判で話した虐待の動機から浮かび上がるのが、同院に脈々と受け継がれてきた虐待行為の連鎖だ。神戸地検は同院では2015年ごろから入院患者への虐待が始まっていたと公判で指摘している。だが本件の動画のような決定的証拠がないためか、「先輩」たちは誰一人として罪に問われていない。
実際、神出病院の元入院患者はこう証言する。
「夜中にポータブルCDプレーヤーで音楽を聴いていて、寝るように注意してきた看護師に逆らったら取り押さえられて、肘がぶつかり歯が2本折れてしまいました。歯医者に行って治療は受けましたが、結局この看護師からは最後まで謝罪の言葉はありませんでした」
統合失調症と診断され、同院に20年間近く長期入院していた60代の男性は入院当時の出来事を振り返る。退院後はグループホームでの生活を経て、今は不自由なく一人暮らしをしている。
「入院生活中は看護師から常に行動を監視され注意されることも多く、まるで医療刑務所にいるような気持ちでした。やはり自由に出かけられ、外食で好きなものも食べられる、自宅での生活がいちばんいいです」(男性)
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