「娘の障がい」契機に国会で闘う彼女の壮絶人生 「政治家の常識は古巣リクルートなら瞬殺です」

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新しいサービスは「デバイスの進化によって生まれるのか、それとも人のニーズによって生まれるのか」と、何日も飽きずに議論する人たちを見てきたので、ダイバーシティー(多様性)の本質は、インクルージョン(包摂的)な環境をいかに創るかなのだと確信しています。「どんな人たちでも包摂してくれる」と多くの人が感じれば、多様性は勝手に、生まれます。

――アグレッシブな伊藤さんにはぴったりの職場ですね。

しかしそれが功罪相半ばであることは、今ならわかります。あの環境にいるとどうしても頑張りすぎてしまう。勤務時間の制限はあったとしても、気持ちの部分でそれを止める仕組みがない。私の場合、自らの意思による「キャリアウェブ制度」を使って、SUUMOからマーケティング局クリエイティブセンターに異動してからは一層、激しく働いてしまい、気付けば「子どもを産み育てる」ことを想像しないまま37歳になっていました。

「街宣車の中で授乳」しながらの選挙戦

――そのリクルートを辞めて、国政選挙に打って出たきっかけは?

不妊治療を経て2人の娘を授かりましたが、次女は生後間もなく「一側性難聴」だと告げられました。本音をいえば、そのときはひどく落ち込み、自分を責めました。眠れない夜を過ごす中、血眼になって障がい者を取り巻く法律や制度、社会のありようも調べました。調べて調べて、この国の現実に落ち込むという無限ループです。

そんな時、インターネットで民主党(当時)の政治家が「政治家は、納得のいかない法律や制度があればそれを直接変えることができる唯一の職業」「子どもたちの未来をつくることができる」と言っているのを見て、涙が止まりませんでした。世の中は障がい者に優しくない、社会は不公平だと愚痴を言いながら生きるのではなく、無慈悲や不条理があるなら、それを変える母としての人生を生きたいと思いました。

放送局に勤める同い年の夫は「やっぱうちの奥さん、変わっとるわ」と言っただけで、応援してくれました。毎日、1歳と3歳の娘のために街宣車の中で搾乳しながら、始発から駅街頭に立つ。地盤・看板・カバンを持たない挑戦者の選挙は苛酷です。さらに苛酷なのは、選挙資金を工面するため大きな借金を背負うのに、会社を辞め、退路を絶って、政治を志す者の覚悟を示せと言われることです。

そんな中、リクルートが在職立候補を許してくれたことは大きな救いでした。当時の上司は「だって落選、濃厚なんでしょ? 落ちたらまた戻ってきて」と言ってくれました。たまさか「日本初の育休中の国政出馬」になったため、リクルートにも、私のところにきたのと同じような批判がたくさん寄せられたのではないかと想像しますが、誰にも何も言われませんでした。ただただ頑張れ、と声援を送ってもらいました。

――リクルートと永田町ではいろいろ違いそうですね。

真逆ですね。リクルートではつねに「で? お前はどうしたいの?」と明確な意思表示を求められますが、永田町では「死んだふり戦法(YESともNOともいわず目を瞑って黙っている)」が横行しています。

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