"増殖"ハラルレストランが抱えるジレンマ アルコールはご法度、割高な食材も経営圧迫

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実際、東京都内でアラビア料理店を経営していたあるアラブ人は、経営の厳しさに耐えかねて、食材の一部にハラル処理されていない、割安な牛肉を使ってしまった。だが、同胞を裏切っていることに加え、神との契約を裏切っていることを終始、悔いていた。

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アラブの国に迷い込んだかのような錯覚に陥る「月の砂漠」の店内

信仰に忠実に生きれば、店は赤字を垂れ流すことになる。信仰をとるべきか、生活をとるべきか。毎日、毎日、くよくよと悩むうちに、ついに彼はがんに罹ってしまった。

「アッラーは見ている。神を裏切った罰だ」。直接の因果関係は定かではないが、そのアラビア人は大いに後悔し、即座にすっぱりと店を譲渡。飲食業からは手を引いた。

その彼も、今では戒律を破ることのない職業に就き、心の平穏を取り戻すことができた。不思議なことに、悩むことがなくなった彼のがんは、急速に小さくなっていったという。世界一、宗教に無頓着と言われる日本人にはなかなか理解することが難しいが、イスラムの人々にとっては戒律を破る行為はそれほどに厳しいことなのだ。

拡大するジレンマ

今、日本全国でハラル対応をうたったレストランが続々と誕生している。だが、中には“ローカル”ハラルの名の下、ハラル認定マークを店頭に掲げたうえで、堂々とアルコールを並べている店舗もある。

店頭にハラルマークを張り出したかぎり、本来であれば豚肉を置かないのと同様、ハラムであるアルコール提供は御法度のはず。だが、その一方で、アルコールも出さず、ハラル対応の食材だけを使った店舗経営では、日本国内で商業ベースに乗らないのも事実。

ブームに便乗して次々と乱発されるハラルマークの数に比例して、日本国内でのハラルをめぐるジレンマは一段と大きくなっている。

(撮影:今井康一)

※ 詳しくは「週刊東洋経済」2014年7月12日号<7月7日発売>掲載の「核心リポート03」をご覧ください。

筑紫 祐二 東洋経済 記者

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ちくし ゆうじ / Yuji Chikushi

住宅建設、セメント、ノンバンクなどを担当。「そのハラル大丈夫?」(週刊東洋経済eビジネス新書No.92)を執筆。

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