4月の日米首脳会談、菅首相は何を話すべきか 気候変動問題で米中協力なら日本は置き去りに

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中国は、2021年6月に二酸化炭素(CO2)の排出量取引所を上海に新設することを目指すなど、ここに来てカーボンプライシングをめぐる動きを加速させている。

他方、日本ではどうか。「菅内閣でついに動き出す『炭素の価格付け』論議」で紹介したように、菅内閣はカーボンプライシングの議論を進めている。しかし、カーボンプライシングの議論では、新型コロナで国民や企業が経済的打撃を受けている中での負担増には反対論が根強い。

おまけに、菅内閣が検討を進めているのは、「成長戦略に資する」カーボンプライシングであって、脱炭素のために他に条件を課さないカーボンプライシングではない。

対中戦略の一環で脱炭素削減強化を

米中対立を横目に安心して日本が国内事情を優先して脱炭素化に消極的になれば、バイデン政権はどう受け止めるか。バイデン政権が注力する気候変動問題に日本は貢献せず、中国の協力が際立つようでは、アメリカが日米同盟にどこまで注力してくれるか心許なくなる。日米安保でのアメリカの負担は重い。

3月の日米2プラス2でも、環境担当の閣僚が出席していないにもかかわらず、気候変動への言及があった。気候変動問題で中国から大幅な譲歩を引き出せれば、最悪の場合、尖閣諸島をめぐって日中間で有事があってもアメリカは日本に加担してくれないかもしれない。

そうした事態は、是が非でも避けるべきだ。日本の温室効果ガス排出削減に向けた取り組みが手ぬるいとみられては、わが国の安全保障にも支障を来してしまう。

もちろん、気候変動をめぐって米中がすんなり協力するとは限らない。バイデン政権が人権侵害問題について懸念する新疆ウイグル自治区では太陽光パネル素材が製造され、それをアメリカが輸入することを禁止するよう経済界が働きかけている。中国の石炭火力発電も問題視している。

こうした情勢の中での日米首脳会談である。首脳会談直後にはバイデン大統領主催の気候変動サミットが控えている。菅首相は首脳会談で日米同盟の強化や北朝鮮問題を大きく取り上げたいだろうが、気候変動問題にも積極的な姿勢を示すべきである。しかも、カーボンプライシングなどの具体策を同時に示さないと、コミットが弱いと受け取られかねない。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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