「20代で家業再建した2代目」が示す探究の凄み ミシュラン二つ星獲得したすし名店の流儀

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味に敏感な人は「酢飯を何種類かに分けて握っているのですか?」と聞いてきます。僕はその都度、「酢飯は一種類ですが、酢とお魚の脂が反応するので、お魚の違いで酢飯の味が変わるように感じるのです」と説明します。ネタと酢飯の一体感が握りの醍醐味。すべてのネタに反応するように考え、合わないネタは握りません。刺身を超えなかったら握る意味はないからです。

仕込みのときにネタと酢飯を別々に食べてみて、香りが大きく上がってくるか、脂と酢の反応はどうかをつねに確認します。味ももちろんですが、一番肝心なのは香りだと思っています。とはいえ、酢飯の味を強くすれば香りが弱くなる、香りだけ意識すれば酢飯が弱くなる。どちらを取るかは難しい判断です。

時に酢飯の味が物足りなく感じる人もいると思いますが、これは日本人であり父(初代店主)から受け継いだDNAを味に混ぜた僕にしか作れないものだと信じています。

常識を疑って生まれた四角い御櫃

御櫃(おひつ)は普通円形ですが、僕が使っている御櫃は長方形です。今ある常識を疑うことから始めた僕は、「御櫃は円形じゃないと駄目なのか?」と考えました。僕の握りを完成させるために酢飯に求めるのは温度と粘り。これをコントロールできる御櫃は円形ではありませんでした。

特注の御櫃は、底がステンレスで、その下に氷を敷いています。五分で酢飯の温度が変わるようにするためです。光り物や鮪、貝類などネタによって違う温度で握ります。

温かければ素材の香りを引き出しますが、嫌な香りも出てしまう可能性があるので、ネタによっては温度を下げます。冷え気味の酢飯は味もシャープになりますが、ゆっくり冷めていった酢飯だと粘りが出すぎるので、強制的に下げるのです。

御櫃を見るたびに、「本当に今やっている仕事は正しいのか?」と初心に返ることができる。とても大切な存在です。

特注した長方形の御櫃(写真:井上浩輝)
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