44歳で妻に先立たれた男「闘病記」に懸けた人生 1万冊集めたネット古書店がリアル文庫で残る

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現代表の横川清司さんが引き継ぎを決めたのは、星野さんが亡くなる少し前のこと。お見舞いに行ったとき、パラメディカを引き継ごうかと尋ねたら、星野さんは静かに頷いたという。没後は貸倉庫に蔵書を置いたが、横川さんの実家が空いたため、まもなくそちらに移した。それが現在の「闘病記図書館パラメディカ」だ。 

オンライン古書店のほうも数年間は元のレイアウトのまま載せていたが、全国の図書館でコード検索できるようにデータベースを作り直すことを決め、2021年3月末時点ではリニューアル中となっている。

現行サイトの「パラメディカ」にある「闘病記を読む7カ条」。闘病ブログにも通じる提言が並べられている

横川さんたちは蔵書を生かすための手間を惜しまない。何がそうさせるのか?

「この蔵書は星野さんそのものなんですよ。この分類、この付箋、このマーカーに星野さんの思いや視点がつまっている。それを眠らせておくわけにはいかない。そう思わされるものがあるんです」

筆者は2014年5月ごろに星野さんにメールインタビューしたことがある。蔵書を没後にどうしたいか尋ねると、星野さんは「本は捨てるか売却するように伝えてあります。図書館への寄贈などはまったく考えておりません。苦労なしに手に入れた資料は大切にされないことを知っていますから。私の役目はほぼ終わりました」と返してくれた。

グリーフワークとして始めた闘病記収集は自分の人生とともに完結させるという意識があったのだろう。文面や自著に書かれた経緯から、当時はそう思っていた。しかし、横川さんは首を振る。

「面白くてしょうがなかったんじゃないか」

「個人の蔵書は公設の図書館に寄贈しても1冊1冊でバラバラにされてしまうし、マーカーがついたものは破棄される可能性が高い。そうなるくらいならいっそ処分してほしいということではないかと思います。本心は蔵書をこのままのかたちで残したかったのでは。

蔵書を読んでいるとグリーフワークだけでやっていた感じを受けないんですよ。分類欲や探究心をくすぐられたりして、すごく生き生きとして向き合っているのが伝わってくるんです。面白くてしょうがなかったんじゃないかなあって思います」

付箋紙が貼られた闘病記の蔵書

星野さんにとって闘病記集めは、光子さんのことや社会的な意義を越えた、生涯をかけた作品作りだったのかもしれない。現パラメディカで几帳面に貼られた付箋のページをめくるうちに、そうした思いが強くなったのは確かだ。

古田 雄介 フリーランスライター

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ふるた ゆうすけ / Yusuke Furuta

1977年生まれ。元葬儀業のライターで、キャリアは15年。デジタル遺品や死後のインターネットコンテンツの行方などを追っている。著書に『故人サイト』(社会評論社)、『中の人』(KADOKAWA)など。

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