44歳で妻に先立たれた男「闘病記」に懸けた人生 1万冊集めたネット古書店がリアル文庫で残る

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そんな日々に異変が訪れたのは、58歳になった2010年の夏のこと。たびたび激しい腹痛に襲われ、便にゲル状の血の塊が混じるようになった。大腸内視鏡検査の結果、直腸がんと判明。肝臓への転移も確認され、原発がんとともに肝臓の4割を切除する手術を受けた。

大腸がんは肝臓や肺に転移しやすい。転移していたらステージIV(末期)ではないか──。闘病記で得た知識が現実をどんどん裏付けていく。治療法は日々進化しているし、同じ病気でも進行には個人差があることも知っている。けれど人体がどんな病気でどんな状態になっていくのか、大まかな道筋はあまり変わらないはずだ。

検査結果のたびに先回りのショックに打ちのめされたが、中途半端な知識をひけらかしてもいい結果を生まないことも多くの先達から学んでいる。術後の経過観察でも余計なことを口走らないように意識して医療と向き合った。

2011年3月、今度は肺転移が見つかる。

「自らの死」を、このときはじめて意識した。このショックは、いくらたくさんの闘病記を読んできた私でも、当事者になってみないと実感できないものだった。多くの大腸がんの闘病記で「転移までの時間が短い場合は危ない」ということは知っていた。私の場合、大腸がんが見つかった時点で肝転移があり、半年後には肺への転移。おそらく2年後にはこの世にはいないだろうと予測できた……。
(『闘病記専門書店の店主が、がんになって考えたこと』より)

当時パラメディカで扱っていた闘病記は3000冊に満たない。星野さんはここから亡くなるまでに4000冊以上を分類し、それ以上の冊数を買い集めていったことになる。事実、サイトのアーカイブやこの時期に始めたFacebookページの投稿には、隙を見ては古書店巡りをしている様子が残されている。

「自らの死」の具体化にショックを受けてもなお、星野さんの日常は大きくは変わらなかった。光子さんの乳がんが肺転移したときとはまるで対照的だ。

「配偶者より、自分が病気になるほうがはるかに気楽」

本記事でたびたび引用している星野さんの自著『闘病記専門書店の店主が、がんになって考えたこと』は肺転移発覚後の抗がん剤治療を終えたころに書き始めて、2012年10月に出版された。冒頭の引用箇所(妻の死後、あまりにも大きな喪失感にとらわれ~)は表紙カバーの袖にも採用された文章だが、もとは「はじめに」にある。そして、その直前の文章に星野さんの平静の理由がまとめられている。

『闘病記専門書店の店主が、がんになって考えたこと』(産経新聞出版/2012年)
配偶者が病気になるより、自分が病気になるほうが遙かに気楽だ。妻に限らず、家族の誰かが病気になるよりも、自分が病気になるほうがましだ。もっとも、幼い子どものいる親であれば、家族の誰かが病気になってもパニックになるだろうし、お互いが若ければ、残される片割れと子どもたちの将来を心配するだろう。
ただ、夫婦間に絞って考えれば、よほど冷え切った関係でもなければ、逝く側より残される側のほうが悲惨である。
(同著より)
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