ラクオリア創薬「総会で株主完勝」の画期的事態 会社側提案を否決、質疑も中身あるやりとりに

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質疑終盤にはラクオリアの創業者でもある長久厚・元社長も株主として登場。経営の問題点や成長戦略などをめぐり、渡邉氏に鋭い質問を次々と投げかける場面もあった。総会が終わったのは、およそ2時間45分後の午後1時すぎだった。

今回の株主総会にあたって柿沼氏がとった作戦は周到だった。ラクオリアの経営改善を求めて専用サイトを立ち上げ、個人投資家のファンも多く抱える自前のブログやSNSなどで総会本番までのほぼ2カ月間、株主提案をアピールした。会社を変えるための具体的な情報も提供し、その地道な活動が実を結んだ。

会社側対応に高まる株主の「マグマ」

忘れてならないのは、圧倒的な個人株主の支持なくして今回の快挙はなしえなかったことだ。柿沼氏は大株主とはいえ、保有比率は10%を少し超す程度。度重なる業績の下方修正や赤字計上ももちろんあるが、ラクオリアの現経営陣が適切なタイミングで丁寧な情報開示を怠り、会社が真の意味での個人株主と対話を行ってこなかったことに対し、株主の不満がマグマのようにたまっていたことが大きい。

「(柿沼氏の提案の)背後に非常に多くの株主が賛同していることを会社は是非理解してほしい」

総会で、業績下方修正への問い合わせをした際の会社対応が形式的で納得できなかった体験を語ったある株主のこの発言が、こうした株主の不満を象徴していた。

ただ、柿沼氏と武内氏を中心とする新しい経営陣になったからとして、ラクオリアの未来が磐石というわけではない。今度は株主としてではなく、実際に経営を担う一員として、短中期の収益確保と成長戦略を、責任を持って実現していかなければならない。さらに、株主総会で支持してくれた個人株主や、新経営陣の手腕を不安と期待を込めて見守る社員たちの支持も獲得する必要がある。

ラクオリアの研究開発のリーダーで、会社側の経営陣の1人として株主提案に反対の旗を振ってきた渡邉氏と、ラクオリアの元社員でもある武内氏と柿沼氏が協力して経営を担っていけるかも焦点になる。

新社長の武内氏は株主総会の質疑の中で、2021年6月末までに現行の中期経営計画を見直し、その中でどのプロジェクトを優先的に臨床開発に引き上げ、注力するかのメドを示す意向を示唆した。

株主総会での勝利に続き、今度はラクオリアの成長を加速させることができるのか。「個人株主革命」とも言えるラクオリア新経営陣の挑戦は始まったばかりだ。

東洋経済プラスの連載「株主の叛乱」では、ラクオリア創薬関連の記事を取り上げています。
埼玉の弁護士が「異例の株主提案」に踏み切る事情
インタビュー/柿沼佑一弁護士「きちんと経営できればラクオリアは飛躍する」
インタビュー/ラクオリア創薬「製薬会社はそんなに甘い商売ではない」
大西 富士男 東洋経済 記者

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おおにし ふじお / Fujio Onishi

医薬品業界を担当。自動車メーカーを経て、1990年東洋経済新報社入社。『会社四季報』『週刊東洋経済』編集部、ゼネコン、自動車、保険、繊維、商社、石油エネルギーなどの業界担当を歴任。

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