「余命1週間の母」を笑顔で見送った家族の結束 ハンバーグを食べコーヒーを飲んだ最期の日々

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面会禁止になる前は早智子が病院の夕食時に介助に通い、時間をかければ、かろうじて自力で食べられていたからだ。

「残り1週間の命なら、もう治療も薬もいらない。せめて私の料理を母に食べさせて、最期はこの腕で抱きしめて看取りたい」

早智子の思いに家族も賛成し、約2カ月半の在宅介護が始まった。

病院での水分のみの点滴からミキサー食に替えて1カ月も続けると、母親はみるみる元気を取り戻した。骨と皮だった顔に色つやが戻り、目には生気が宿り、プニョプニョとした手触りの肉が体に戻り始めた。すると、短い会話も交わせるまでに回復した。

食べることは生きること──早智子は母親の復調に痛感させられた。

食べたものを喉に詰まらせるのが嚥下障害。それを防ぐためにミキサーにかけ、ドロドロにしたのが「ミキサー食」だ。

食欲をそそる手料理の数々。左は再形成食の肉うどん、右はハンバーガー(写真:守本さん提供)

だが、見た目が悪く食欲をそそらない。そこで違う食材も混ぜて本物のハンバーグや焼肉のように形や色を整え、本物のソースやタレをかけて仕上げるのが「再形成食」。手間はミキサー食の2倍はかかると早智子は話す。

「焼肉なら、ひき肉と卵に、はんぺんとお麩の粉を加えてミキサーにかけ、肉1枚相当分の量を成型シートに流し込んでラップに包みます。レンジで一度蒸し固め、フライパンで軽く焦げ目をつけ、焼肉のタレをかけて完成。家族の夕食も焼肉にして、母は肉を焼く匂いを一緒に嗅ぎながら大満足でしたよ」

在宅介護の後半、早智子のレパートリーに再形成食が加わり、母親をいっそう喜ばせた。焼肉なのに、はんぺんとお麩の粉を加える理由は、口に入れたときのフワフワ感と、口溶けの良さを出すためだ。

在宅介護が1カ月半を過ぎた頃、早智子の予定が立て込み、母親に近くの病院に3日間短期入院してもらったことがある。その際、見た目の復調ぶりとは裏腹に、血液検査で心不全などの危険性を指摘された。

しかし早智子はブレなかった。

「在宅医の先生と同様に、その病院にも『治療も投薬も一切しません』とお伝えしました。今後も母には食べたいものだけを食べてもらいます。結果、寿命が仮に1週間短くなっても構いませんからって」

早逝した長男の介護経験を母親に生かす

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その固い決意は、早逝した自身の長男への後悔ともつながっていた。

早智子は息子の良平を、2010年10月に弱冠20歳で亡くしている。良平は14歳で白血病を発症。一度は症状が消えたりしたが、その後も二度の白血病などを患った末だった。

1日でも長く生きてほしい。早智子は自分の思いが強すぎて、良平に辛い治療や投薬を強いてしまったのではないか。そんな後悔をずっと引きずっていた。

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