人々を今も熱狂させる「地獄に落ちた男」の演説 ダンテの日だから語りたい「神曲」の名場面

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ところが、今年は没後700年を迎えることも相まって、ダンテにちなんだ雑誌特集やテレビ番組などがたくさん予定されており、イタリアにおいて3月はとにかくダンテ一色となっている。「イタリア語のパパ」だけに、盛大にお祝いしたいものだ。

未知の世界へと飛び込んで、先生が歩き出したのは、700年以上前の今日……それを思い浮かべるだけでワクワクしてきて、思わず『神曲』の好きなエピソードを読み直したくなる。

ダンテが科すひどい罰の根底にあるもの

場所は地獄のドン底、謀略者が入り浸る第八の嚢。そこにいるのは権謀術数をめぐらして、他人を欺いた人たち。水が流れるがごとく滑らかな話術や明晰な頭脳を持ち、それを悪用してきた強者ばかりだ。彼らの魂は舌の形を彷彿とさせる火炎に閉じ込められ、救いようのない苦悩を強いられている。

『神曲』を読むと、千差万別の罪の話が出てくるのだが、それに対して科される数々の罰はオリジナリティーに富んでいるというか、とにかくひどい。そのすごさの根底にあるのは、いわゆる「コントラパッソ法則」というものだ。

「コントラパッソ」はラテン語の「逆」と「苦しむ」という単語から成り立っている古いイタリア語であり、ダンテ先生は罰の内容を構想するときに、その原則をもれなく適用している。それに従って、罪人1人ひとりが受ける罰の内容は、もともと犯した罪と正反対のものになる。そうすることで、地獄や煉獄に突き落とされた者たちは自らの振る舞いを新しい角度から見つめ直し、ざんげする機会を与えられる。

謀略者も例外ではない。彼らは自己利益を得るため、巧妙に言葉を使って、他人の心に火をつけた人々である。だからこそ、ダンテが描く世界では、彼らが絶えず燃え続けて、生前、相手に与えた苦しみを自ら味わっている。読みながらブルブルと震えてくるような、身にしみるおそろしさ。

地獄の殺伐とした空気の中で歩いているダンテは、ある岩の橋を渡る。そして、ふと目線を落とした瞬間、その下に無数の小さな炎が揺らめいていることに気づく。地獄ツアーのガイドを務める、古代ローマの詩人ウェルギリウスはその正体について淡々と説明する。そこでダンテは2つに分かれている、いびつな形をしたある火炎に気を取られて、その霊と話したいと言い出す。

さすが先生、お目が高い! そこに身を隠しているのは、ギリシア神話の2人の英雄、オデュッセウスとディオメデである。

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