人々を今も熱狂させる「地獄に落ちた男」の演説 ダンテの日だから語りたい「神曲」の名場面

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国民の生活に溶け込んでいるダンテの言葉(写真:alanstix64/PIXTA)

何でもない普通の日常の瞬間を、1つひとつ大切に思うべし──。毎年訪れる、7月6日の「サラダ記念日」はこのことを思い出させてくれる。

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冷たい風がびゅうびゅうと吹き付ける真冬の熱海の海岸に立つ、怒り狂った1人の青年の姿。明治時代のベストセラー『金色夜叉』に出てくるこのワンシーンは1月17日のことだ。恋人のお宮に裏切られた寛一が復讐の権化へと化す瞬間が刻まれていく。

文学において具体的な日付が言及されるのは珍しいことではなく、上の2つの例のように、それ自体が作中において特別な意味を持つこともよくある。そして、想像上の話だとわかっていながらも、そういう日が近づくにつれて、私は少しばかりそわそわしてくる。残念なことに、その感覚を共有できる人はなかなか周りにはおらず、たとえ「今日は『金色夜叉』の日だ!」とはしゃいだとしても、冷やかな目を向けられるだけだ。

3月25日はなんと「ダンテの日」

この連載でも何度か取り上げている『神曲』にもそんな日がある。はっきりとした記載はないけれど、ダンテ先生が暗闇に包まれた森にさまよったのをきっかけに、地獄、煉獄、天国をめぐる壮絶な旅を始めたのは、3月25日だったそうだ。

文中に記されている細かいヒント、カトリック教の豆知識や当時の気候に関する情報などなど、何人もの学者が実に数多くの物的証拠を集めた結果、ほかの候補日の可能性も残っているものの、3月25日は正式な「ダンテの日」として選ばれたのだ。一応言っておくが、それは私の勝手な思いつきではなく、イタリア共和国政府お墨付きのれっきとした本物の記念日である。

ただ正直にいうと、「ダンテの日」はそこまで脚光を浴びていないアニバーサリーであり、一部の物好きをのぞく国民一般はさほど興味を示しているわけではない。

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