3月12日午後8時頃、中国の阿里巴巴集団(アリババ)傘下のフィンテック大手、螞蟻集団(アント・グループ)の社内に衝撃が走った。同社CEO(最高経営責任者)の胡暁明氏が辞任を申し出、取締役会がそれに同意。董事長(会長に相当)の井賢棟氏がCEOを兼務するという重要人事が、井氏の名義の社内メールで送信されたのだ。
この情報はたちまち外部に伝わり、アントは(メディアの照会に対して)胡氏の辞任が事実だと認めた。井氏のメールによれば、胡氏は今後、アリババとアントの公益事業およびCSR(企業の社会的責任)活動を全面的に率いていくという。
胡氏は金融のプロフェッショナルで、中国建設銀行や中国光大銀行で個人向け融資などの業務を担当した後、2006年にアリババに入社した。
2009年、胡氏は個人向け少額ローン事業のリーダーとなり、キャッシュレス決済の「支付宝(アリペイ)」に続くフィンテック事業の2番目の柱を築いた。さらに2014年、胡氏はクラウドサービス「阿里雲(アリババクラウド)」のトップに転じ、同事業を中国最大手の公共クラウドサービスに急成長させた。
金融当局が規制・監督の圧力を強化
こうした実績が評価され、胡氏はとんとん拍子に出世を重ねた。2018年12月にはアント(当時の社名は螞蟻金服集団[アント・フィナンシャル・サービス・グループ])の総裁に就任。1年後の2019年12月にはCEOに上り詰めた。
ところが2020年10月24日、胡氏の運命を変える事件が起きた。アリババ創業者の馬雲(ジャック・マー)氏が、上海で開催された金融フォーラムで中国の金融監督当局に対する批判とも受け取れるスピーチを行い、大論争を巻き起こしたのだ。
このとき、アントは上海証券取引所と香港証券取引所へのIPO(新規株式公開)手続きの最終段階にあった。しかし11月3日、アントのIPOは当局の指示により突如延期され、今もなお手続き再開のメドは立っていない。
財新記者の取材に応じたアントの関係者によれば、胡氏を含むアントの経営幹部はIPOの延期後はほとんど北京に滞在し、当局とのコミュニケーションを重ねていたという(訳注:アントの本社所在地は浙江省杭州市)。
12月26日には、中国人民銀行(中央銀行)など複数の当局が共同でアントの責任者を召喚。同社に対して(銀行などと同等の規制・監督を受ける)金融持ち株会社の設立や、資本金の十分な積み増し、正規の認可に基づく個人信用情報の取り扱い、決済業務への回帰などを求める行政指導を実施した。
胡氏のCEO辞任により、アントの混迷は一層深まりそうだ。
(財新記者:朱亮韜)
※原文の配信は3月12日
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