新聞の「推薦制度廃止」を読むと、「理系では推薦制度での採用が一般的」と受け止める人が多いのではないかと思う。ところが、現実はまったく違うのだ。理系院生へのアンケートでわかるように、今も制度としての「推薦」は存在しているが、かつての推薦とは内実が異なっているのだ。
推薦制度が機能していたのは、日本の製造業が「世界に冠する」と形容されていた1980年代までだ。メーカーの人事は研究室訪問、大学巡りを年間行事に組み込んでおり、産学の連携は強固だった。
しかし、1990年代以降に日本経済と製造業の衰退が始まり、大学との関係は弱まるとともに、ソフトウェアや金融など製造業以外での理系採用が広がり、推薦制度は形骸化していった。1990年ごろから社会構造に大変化が起こったことも関係しているだろう。例えば冷戦の終了によるグローバル経済圏の出現、IT化の進展とインターネットの普及などはだれでもわかる変化だ。理工学部では「学際化」が叫ばれて2000年頃から学系の再編が始まる。
そして、今回のトヨタの決断だ。推薦制度を使えば、大学・研究室から学生がこれまでどおり集められるが、トヨタはAIやビッグデータ、人間工学などを学んだ学生がほしい。そのために推薦制度を廃止し、情報工学などからの自由応募学生に期待するということだろう。この決断は、理系推薦制度にピリオドを打つ象徴的な出来事かもしれない。
推薦が必要な理由は?
推薦制度を使う理由と使わない理由を学生コメントから紹介しよう。推薦枠がなくなると「非常に困る」理由は「勉学、研究時間の確保」。
当たり前だろう。大学院に入ってM1(修士1年)になってすぐの6月にインターンシップの案内が来てそわそわしだし、翌年3月に採用広報が解禁され、面接選考は6月解禁といいつつ、実質的には3月頃から面接が始まる企業が多い。早く内定が決まらないと研究に本腰が入らないのは当然だ。
「就職活動に時間を取られたくない」(東京工業大学大学院・機械)
「研究で忙しい人のための学校推薦であったのに、廃止が進むと就活に時間をかけて面接が上手くなった人が優先的に行きたい企業に行けてしまう」(広島大学大学院・電気・電子)
「大学院生は研究が忙しいため、就職活動を短期間で終えられる学校推薦は絶対に必要であると思います。なくすべきではありません」(青山学院大学大学院・その他)
推薦枠がなくなると「やや困る」と回答した学生のコメントを読むと、推薦は「内定に直結しないが優位に働く」と積極的に評価している。端的に言えば「理系大学院生というアドバンテージを活かせなくなるから」(お茶の水女子大学大学院・生物・農)というように、推薦は理系院生の特権なのだ。
「研究で忙しいのに、就活で多少の優遇装置がないと時間が割けない」(茨城大学大学院・電気・電子)
「一部選考が免除になるだけでも負担は減るため、利用できる企業であれば積極的に利用したいと考えている」(奈良先端科学技術大学院大学・情報)
「一般応募より楽に選考ができる」(日本大学大学院・建築・土木)
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